SaaS KPI シリーズ - コホート分析 Part 1 - レイヤーケーキ・チャート

SaaSの収益を測る指標にMRR(月間定期収益)という指標があることを以前、紹介しました。

今日はSaaSのビジネス、すなはちMRRが効率的に成長しているかどうかを測るチャートである、レイヤーケーキ・チャートを紹介します。

MRR(月間定期収益)の問題

ビジネスが成長しているかどうかは、MRRをモニターすることで理解することができます。

ただし、ビジネスの状況をより適切に理解したいのでれば、ビジネスが「効率的」に成長しているかも理解したいものです。

ただMRRをモニターしているだけでは、そういったことは分かりません。

実はMRRを新規顧客と既存顧客にグループに分けてモニターすることで、ビジネスの効率を理解し始めることができます。

ちなみに、このように属性などで分けられたグループのことをコホートとよび、コホートごとに指標を比べる分析のことをコホート分析と呼びます。

MRRを新規顧客と既存顧客のコホートに分ける

例えば先程のMRRを新規顧客からのMRRと既存顧客からのMRRに分けてみると、上記のようになります。

このとき、既存顧客からのMRRは前月の新規顧客と既存顧客のうち、翌月も サービスを継続した顧客から得られるMRRです。

すると、上記のケースでは、ビジネスが成長していてもチャーンが多く、顧客が定着していない、つまり、ビジネスを「効率的に」成長させられていないことがわかります。

新規顧客と既存顧客の維持コスト

では、なぜ「効率的」に成長させられていないと言えるかというと、それは一般的に新規顧客の獲得コストと既存顧客のコストは異なるからです。

例えば、新規顧客の獲得には、広告・マーケティング費用や営業費用などのコストがかかる一方で、既存顧客の維持、すなはち、リテンションのコストには、カスタマー・サポートや、カスタマー・サクセス費用がかかります。

そして、これらの費用を比べると、多くの場合、新規顧客の獲得コストの方が高くなると言えます。

従って、以下のように既存顧客からのMRRの割合が高くなれば、同じMRRを得るために必要なコストを抑えることができ、ビジネスを効率的に成長させられていると言うことができるわけです。

ただし、新規と既存のコホートに分けるだけでは、ユーザーがどれぐらいの期間、 既存顧客であるかが分かりません。

これはサブスクリプション型のビジネスを深く理解するうえで、大きな問題です。

サービスの継続期間と収益

では、この問題がどのようなものなのかを、1人の顧客の獲得に3万円の費用がかかる、月額1万円のビジネスを例に考えてみます。

コンバートした月(1ヶ月目)の収益とコンバートにかかった費用の差は−2万円となり、このユーザーからは利益が発生しないことになります。

このユーザーが3ヶ月間サービスを継続して利用すれば、このユーザーを獲得するためにかかった費用(投資)は回収できることになります。

さらに、このユーザーが4ヶ月サービスを継続すれば、このユーザーからは利益が得られるようになります。

そして、このユーザーがより長い期間サービスを継続すれば、このユーザーからは、より多くの利益が得られます。

このように、既存顧客の中でも、期間が長いセグメントになればなるほど収益(生涯収益)は大きくなるわけです。

従って、単に新規顧客か、既存顧客かでコホートに分けるよりも、継続期間で顧客をグループに分けた方が、MRRをより効率的に増やすことができているかがわかるわけです。

サービスを利用している期間でユーザーをコホートに分けて、MRRを可視化する

では実際に、以下のようにMRRが推移するビジネスを例に、サービスを利用している期間でユーザーをコホートに分けて、MRRを可視化してみます。

すると、以下のようにサービス利用期間ごとのコホートのMRRを可視化できました。

直近月のMRRに注目してみます。

すると、このビジネスでは利用期間の短いユーザーからの収益に頼っているので、MRRを効率的に増やすことができていないということがわかります。

また逆に、もしユーザーの多くがサービスを長い期間使い続けている場合は、それぞれの期間のユーザーの比率は同じような比率になるはずです。

そして、ユーザーの多くがサービスを長い期間使い続けている場合、それぞれのコホートからの収益が積み重なっていくので、MRRを効率的に増やしていくことができるわけです。

このように、MRRを顧客の利用期間ごとのコホートに分けて可視化することで、MRRが効率的に成長していっているかを理解することができます。

エリア・チャートを使って、直感的にコホートの変化を理解する

ただ、実はこのように、コホートに分けてMRRを可視化するときには、エリア・チャートを利用する方が、時間の経過による各コホートの変化を捉えやすいとうことがあります。

そして、このようなチャートのことをレイヤー・ケーキ・チャートと呼びます。

なおレイヤーケーキ・チャートのコホートにはサービスの利用開始時期が利用されることが一般的です。

レイヤーケーキチャートの見方

普通、顧客はチャーン(解約)するので、時期による差はあれど、各コホートから得られる収益は減っていきます。

またオンボーディングやプロダクトの改善によって、顧客がすぐに価値を体験できるようになっていれば、使い始めた時期が最近のコホートのチャーン率は改善(減少)するはずなので、MRRの減少幅も小さくなります。

加えて、長期に渡り顧客をリテンションできているサービスであれば、新規ユーザーからの収益がそのままビジネスの成長となります。

ただし、これが最高のレイヤーケーキではなく、さらに最上のレイヤーケーキの形があります。

なぜなら、既存顧客は購読しているプランを以下のようにアップグレードしたりと、エクスパンションするからです。

エクスパンションがあると、既存顧客からのMRRは増えるため、前月の既存顧客のMRRに比べて翌月のMRRが増えることがあります。

このことをネガティブチャーンと呼びます。

ネガティブチャーンが起きていると各コホートから得られるMRRはどんどんと大きくなっていき、これが最高のレイヤーケーキとなるわけです。

まとめ

今日はSaaSのビジネス、すなはちMRRが効率的に成長しているかどうかを測ることができるレイヤーケーキ・チャートを紹介しました。

レイヤー・ケーキ・チャート具体的な作り方は以下にて紹介していますので、よろしければ、ご参考ください!

  • SaaS アナリティクス・ワークショップ 第6回: コホート分析 Part 1 - レイヤーケーキ・チャート - リンク
  • SaaSのコホート分析でよく使われるレイヤーケーキ・チャートの作り方 - リンク

SaaS アナリティクス・ワークショップ

SaaS/サブスクリプション型ビジネスで働く方を対象に、「現場で即使えるデータ分析」の手法をみなさんに身につけていただくための無料オンライン・ワークショップを開催しています。

このワークショップでは、SaaS/サブスクリプション型ビジネスにとって重要なKPI、データの加工、可視化、統計・機械学習といった様々なデータサイエンスの手法などを、シリコンバレーなどでの事例を交え紹介させていただきます。

さらに、このワークショップのゴールはみなさんに自分でデータ分析ができるようになっていただくということのため、後で自分でExploratoryを使って行うためのチュートリアルも用意しております。

過去の内容も録画やスライドで確認することが可能です。ご興味ありましたら、ぜひ下記の詳細ボタンからご確認ください!

詳細

Export Chart Image
Output Format
PNG SVG
Background
Set background transparent
Size
Width (Pixel)
Height (Pixel)
Pixel Ratio