カスタマー・リテンション率は特定の期間でサービスを継続(リテンション)した顧客を、その期間の総顧客数で割ることで計算できる指標ですが、顧客の数ではなく収益のリテンションに注目することもあります。
そして、この収益のリテンション率はビジネスをどれだけ効率的に成長させられているかを計る指標として利用することが可能です。
上記の理由について、チャーンがほとんど発生しないビジネスと、チャーンが多く発生するビジネスを比較しながら見ていきたいと思います。
例えば、月額1万円でチャーンがほとんど発生しない上記のようなビジネスを考えてみます。
このビジネスでは上記のように毎月1万円のネット・ニュー MRRが発生しています。
結果としてMRRは月を追うごとに増えています。
見方を変えれば、「既存顧客からの収益の割合が高く、新規顧客がビジネスを着実に成長させている」ビジネスと言えます。
続いて、上記のようなビジネスを考えてみます。
こちらもネット・ニュー MRRだけを見ると先程のビジネスと同じように毎月1万円ずつ成長しているように見えます。
すると先程と同じように、MRRも月を追うごとに増えるわけです。
ただし、こちらは「既存顧客からの収益の割合が低く、新規顧客に頼り切った成長になっている」ビジネスとなるわけです。
先程見た2つのビジネスでは、MRRは同じように増えていました。
また毎月のネット・ニュー MRRも2つビジネスで違いはありません。ただし効率という意味では両者には大きな違いがあります。なぜなら新規顧客の獲得には既存顧客のリテンションより、一般的に多くのコストがかかるからです。
リテンションが良い方のビジネスに注目してみます。
3月は4人の既存顧客のうち、1人の顧客がチャーンしているため、前月からリテンション率は75%です。顧客の大半はリテンションできているので、既存顧客からの収益の割合が高く効率の良いビジネスになっているとも言えます。
続いてリテンションが悪いケースに注目してみます。
3月は4人の既存顧客のうち、3人の顧客がチャーンしているため、前月からのリテンション率は25%です。顧客の大半はチャーンしているので、新規顧客に収益を頼った効率の悪いビジネスになっているとも言えます。
この収益のリテンションの割合のことをレベニュー・リテンション率と呼び、レベニュー・リテンション率が高い程、ビジネスは効率が良いと言え、レベニュー・リテンション率が低いビジネスが効率が悪いと言えます。
では最も良いレベニュー・チャーン率はどの程度になるかというと、顧客がチャーンをしなければレベニュー・リテンション率が下がることはないので、100%だと思うかもしれません。
しかし、レベニュー・リテンション率は100%以上になることがあります。
と言うのも、SaaSの世界にはコンバージョンとチャーン以外にもビジネスの成長のエンジンとブレーキがあるからです。
それらが何かというと、プランのアップグレードなどによる増収のエクスパンションと、ダウングレードなどによる減収であるコントラクションです。
例えば、Dropboxのようなサービスでは、スタンダートで始めた月額のプランを途中で上位のプランにアップグレードすることがあります。
そのような場合、プランをアップグレードした顧客から得られる収益は前月より増えることになります。この増収のことをエクスパンションと呼びました。
逆に上位のプランから低いプランにダウングレードすることもあり、プランをダウングレードした顧客から得られる収益は前月より減ることになります。この減収のことをコントラクションと呼びました。
ここからは、先程紹介したレベニュー・リテンション率が高かったケースを例に、このビジネスがスタンダードプラン(1万円/月)とプレミアムプラン(2万円/月)、2つの月額プランを提供しているものとして考えていきます。
仮に、3月に2人の顧客ががスタンダードプラン(1万円/月) からプレミアムプラン(2万円/月)にプランをアップグレードしたとします。
すると、チャーンが発生しても既存顧客からの収益の合計は増えることになります。
結果として、レベニュー・リテンション率は100%を超えることになるわけです。
逆に3月にコントラクションが発生する場合、どのようにレベニュー・リテンション率は変わるのでしょうか。
まずはコントラクションが発生しなかった場合の、レベニュー・リテンション率を思い出してみます。
仮に3月に1人の顧客が、プレミアムプラン(2万円/月) からスタンダードプラン(1万円/月)にプランをダウングレードしたとします。
すると、3月には1人のチャーンに加え、1人のコントラクションが発生することになるので、3月の既存顧客からの収益は減り、レベニュー・リテンション率は悪化することになるわけです。
このようにエクスパンションやコントラクションを考慮したレベニュー・リテンション率のことをネット・レベニュー・リテンション率と呼び、収益の効率性を計る指標として利用されます。
そして、ネット・レベニュー・リテンション率が100%以上となることをネガティブ・チャーンと呼びます。
SaaS/サブスクリプション型ビジネスで働く方を対象に、「現場で即使えるデータ分析」の手法をみなさんに身につけていただくための無料オンライン・ワークショップを開催しています。
このワークショップでは、SaaS/サブスクリプション型ビジネスにとって重要なKPI、データの加工、可視化、統計・機械学習といった様々なデータサイエンスの手法などを、シリコンバレーなどでの事例を交え紹介させていただきます。
さらに、このワークショップのゴールはみなさんに自分でデータ分析ができるようになっていただくということのため、後で自分でExploratoryを使って行うためのチュートリアルも用意しております。
過去の内容も録画やスライドで確認することが可能です。ご興味ありましたら、ぜひ下記の詳細ボタンからご確認ください!