SaaS KPI シリーズ - コホート分析 Part 2 - 生存曲線

今回は以前の記事で紹介した以下の話の続きをしたいと思います。

チャーン率だけを毎月追っていると、ビジネスの問題を適切に把握できていないことがあります。これは、多くのスタートアップが犯してしまう間違いです。

レイヤーケーキ・チャートの問題

ところで、前回の記事で、SaasSのMRR(月間定期収益)を効率的に成長させられているかを理解するために、レイヤーケーキ・チャートという可視化の方法があるという話をしました。

このレイヤーケーキ・チャートは「収益」のリテンションを追うのには有効でしたが、ビジネスの状況をより適切に理解するために、「顧客」のリテンションに注目したいこともあります。

そういったときは集計の対象を「収益」から「顧客の数」に変えてしまえば良いのですが、実はレイヤケーキ・チャートではコホートごとにY軸が揃っていないので、顧客の生涯の中で、どのタイミングで最もチャーンが発生するかが理解できないという問題があります。

生存曲線

では、どうすれば顧客がいつ最もチャーンしているか知ることができるかというと、購読を開始してからの経過時間ごとのリテンション率を可視化すれば、それを理解することができます。

そして、多くの顧客がチャーンするタイミングが分かれば、そのタイミングに合わせて顧客を重点的にサポートすることが可能になります。

データサイエンスの世界では、このような継続期間ごとのリテンション率を可視化した曲線を生存曲線と呼び、リテンション率を生存率と呼びます。

この生存曲線を利用すると、どういったタイミングで生存率が下がるかを知ることができる。

ただし、ユーザーの生存曲線をただ描いただけでは、それが「良い」のか「悪い」のかが、わからないということがあります。

コホート分析

そういったときは顧客をコホート(グループ)に分けて、生存曲線を描くことで、生存曲線が「良い」か「悪いか」を理解することができます。

例えばNetflixのようなサービスで、ユーザーをモバイルユーザーとデスクトップユーザーのコホートに分けて、以下のように生存曲線を描いたとします。

モバイルユーザーの生存曲線の傾きの方デスクトップユーザーより「緩やか」なので、モバイルユーザーの方が生存率が高いと言えます。

従って、生存曲線の傾きは緩やかになるほど「良い」と言え、モバイルユーザーはサービスを長期間利用したくなるような、体験ができているという仮説を立てることができます。

一方でデスクトップユーザーの生存曲線の傾きがモバイルユーザーに比べて「悪い」ことから、デスクトップユーザーの体験に問題がある、と仮説を立てることもできます。

このように生存曲線を利用した、コホート分析をすることで、リテンションを高めるための打ち手を考え始めることができるのです。

チャーン率の問題

また先程は、レイヤーケーキ・チャートの、「どのタイミングで最もチャーンが発生するかが理解できない」という問題を生存曲線を利用することで解決できることを紹介しましたが、顧客がどの程度チャーンしているかを理解するために、以下のようにチャーン率をモニターすることもあります。

ただ実はチャーン率だけをモニターしていると、チャーン率が良くなっているように見えるのに、実はビジネスが悪くなっているということが起きてしまいます。

この問題を詳しくを見ていくために、「チャーンの重力」と呼ばれる、チャーンの性質について紹介していきます。

チャーンの重力

チャーンには重力とも呼べる、以下のような特徴があります。

  • ビジネスが急成長しているとチャーン率は悪くなる傾向がある。
  • ビジネスの成長が鈍化しているときにチャーン率は良くなる傾向がある。

ビジネスが急成長しているとチャーン率

ここからは1つ目の「ビジネスが急成長しているとチャーン率は悪くなる傾向がある。」という話をしていきたいと思います。

また、上記について説明するうえで、顧客のチャーン率について考えると、一般的に利用期間が短い顧客の前月からチャーン率は高くなり、リテンション率は低くなりがちであると言えます。

一方で、利用期間が長くなると顧客のチャーン率は低くなり、リテンション率は高くなりがちであると言えます。

それでは具体的に、以下のようにビジネスが急成長しているサービスの場合を考えてみます。

これは、最新月の前月にコンバートした顧客が全体に占める割合が高いようなケースです。

もし顧客の経過時間ごとのチャーン率が前述の内容から変動しないのであれば、1ヶ月目の顧客のチャーン率は40%なので、この場合多くの顧客がチャーンすることになります。

このように急成長しているビジネスの場合、最近の顧客のチャーン率が全体のチャーン率に与える影響が大きくなるわけです。

ビジネスの成長が鈍化しているときのチャーン率

続いて2つ目の「ビジネスの成長が鈍化しているときにチャーン率は良くなる傾向がある。」という話をしていきたいと思います。

具体的に、以下のようにビジネスの成長が鈍化しているサービスの場合を考えてみます。

これは、最新月の前月にコンバートした顧客が全体に占める割合は低いようなケースです。

もし顧客の経過時間ごとのチャーン率が前述の内容から変動しないのであれば、先程と変わらず40%ですが、成長が鈍化していて新規顧客が少ないので、チャーンする顧客は少ないと言えます。

このように、ビジネスの成長が鈍化している場合、チャーン率が低い昔からいる顧客の割合が高いため、全体のチャーン率が低くなるわけです。

チャーン率の罠

従って、利用期間が異なるユーザーをまとめて、平均的な顧客のチャーン率を追いかけているとチャーンが良くなっているのに、ビジネスが悪くなっているジレンマが起きてしまいます。

購読開始時期ごとのコホート分析

そして、チャーン率が良くなっているかどうかを分析するときは、以下のように、サービスの購読開始時期ごとにコホートに分けて、生存曲線を比べると良いということがあります。

SaaSの世界ではコホート分析と言うとき、一般的には利用開始時期をコホートにしたものを指すことが多くなっています。

そして、時間の経過と共に生存曲線が緩やかになっているということは、サービスやプロダクトなどの改善によりチャーンが起きにくくなってきていると言えます。

逆に時間の経過と共に生存曲線が急になっているということは、サービス、ユーザー体験に何らかの問題が生じていて、直近のユーザーのチャーンが起きやすくなっている可能性があると言えるわけです。

まとめ

このように顧客のチャーン率だけを追うだけでなく、コホート分析を行うことでSaaSのビジネスにおけるチャーンの現状は正しく認識できるようになります。

生存曲線の具体的な作り方は以下にて紹介していますので、よろしければ、ご参考ください!

  • SaaS アナリティクス・ワークショップ 第7回:コホート分析 Part.2 - 生存曲線 - リンク

一方で正しく現状認識が出来るようになったとしても、どのような打ち手でチャーンを減らすかといったインサイトを得ることは難しいです。

Exploratoryでは、機械学習や統計のアルゴリズムを駆使した”アナリティクス”でこの生存曲線の傾きを緩やかにする因果関係に迫ることを提唱していますが、それについてはまた別の機会で取り上げたいと思います。


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