どうも!ExploratoryのIkuyaです。
先日はSaaS企業のDropboxの収益のレイヤー・ケーキ・チャートを通して、いかにDropboxが理想的な成長をしているかを紹介しました。
本日は、日本でも利用者が急増しているWeb会議用のコミュニケーション・サービスを提供するZoom Video CommunicationのS-1(筆者注:アメリカ合衆国において、IPOの際に提出が義務付けられている書類)についての記事を紹介します。
以下、要約。
Zoomの愛称で知られるZoom Video Communicationは1億ドルのIPOを申請しました。申請金額は1億ドルですが、1億ドルを超えることは確実です。(訳者注:IPO後の時価総額は90億ドルを超えました)
Zoomは「ビデオ・コミュニケーションにおける摩擦をなくす」ことをミッションに掲げ、あらゆる規模の企業が利用しやすいプラットフォームとして広く普及しています。
同社は自らのサービスを通じて、リモートワークや世界中で機能するチームづくりを推し進めたり、企業や顧客との結びつきを強くすることで、様々な企業の成長を加速させたいと考えています。
2011年にカリフォリニアのサンホゼで創業したZoomには現在1700人の従業員が在籍していて、事業を開始してから現在に至るまで数十億分の会議をサービス上で提供してきました。
Zoomのミッションは「対面会議より優れた会議体験を提供する」ことです。同社はデバイスや場所を超えてビデオ、音声、チャットなど多様なコンテンツの共有を可能にするプラットフォームを提供します。
Zoomのプロダクトは多くのサードパーティー製ソフトウェアとの統合も実現しています。
同社は自社の製品が「うまく機能する」理由の一つとして、アーキテクチャレベルでのアプローチを挙げています。具体的にZoomではクラウドでの利用に最適化された独自のルーターを開発しています。
加えてZoomは1年に200以上の新機能や拡張機能をリリースしているのですが、エンジニアのリソースの約20%を顧客から要望のあった価値ある機能の実装に割いています。
上記のプロダクトから伺えるようにZoomは多様なOS、デバイス、そしてサードパーティ・アプリケーションとの相互運用性を自身の重要な機能の一つとしてあげています。
実際、ZoomはWindows、Mac OS、iOS、Android、Linuxなど様々なプラットフォーム上での利用が可能です。さらに彼らはAtlassian、Dropbox、Google、Linkedin、Microsoft、 Salesforce、Slackなど多様なソリューションやサービスとの統合環境を提供しています。
Zoomは成長スピードが速いだけでなく、効率的に成長しています。そして、その効率性は「ポジティブなユーザー体験の好循環」によってもたらされています。
例えばZoomのユーザーは無料でサインアップして、会議に人を招待します。会議のホストも招待された人もプロダクトを実際に使ってみて、使いやすさと優れた機能性に感動して、追加機能にお金を払うようになるわけです。
同社は2019年度に3億ドル以上の収益をあげ、前年比で118%成長しました。ほぼすべての収益はサブスクリプションからの収益で、第四半期におけるARR(訳者注:年間定期収益)は4億2,320万ドルに達する見込みです。これは前年比で108%の成長となります。
これだけ急速に成長しているにもかかわらず、同社は収益性も高くなっています。前四半期のGAAP(訳者注:米国会計基準)の営業利益率は5%、非GAAP(訳者注:非米国会計基準。GAAPより純利益が高く算出されます)での営業利益率は9%でした。
以下、ビジネスを理解するためのいくつかの指標を紹介します。
Zoom がビジネスを展開する市場は巨大です。IDC(訳者注:International Data Corporation、IT専門の調査会社)はZoomがプロダクトを展開する市場規模が2020年には431億ドルになると試算しています。
さらにZoomはとても簡単に使い始めることができるため、Zoomは自分たち自身が市場を押し広げていると考えています。
Zoomがビジネスを展開する市場は決して真新しい市場ではなく、非常に競争が激しい市場です。Skype、Webex、Googleだけでなく、LogMeInのプロダクトとも競合しています。さらにベンチャーキャピタルから支援を受けているBlueJeansやLifesizeといった、競争力のあるプロダクトを持つ企業とも競合しています。
一方でZoomも直近、PBXプロバイダーに対抗するZoom phone サービスの提供を開始しました。市場環境は過酷ですが、それでもユニークなプロダクト戦略を取り、速いスピードで成長を続けるZoomがシェアを落とす将来は想像がつきにくいと言えます。
Zoomの成長が驚異的であることは言うまでもありませんが、IPOした高成長SaaS企業と比較することで、さらにその成長は際立ちます。
上記のチャートはIPOしたタイミングから6〜8四半期前の収益が1億ドル前後だったSaaS企業の収益を比べたものです。このグループには約20の会社が含まれるのですが、ZoomはWDAY(Workday)、SHOP(Shopify)、Box、Zuora(Zuora)などの有名企業と比較しても、どのSaaS企業よりも急激に成長していることが分かります。
2018年にIPOしたSaaS企業の四半期収益の前年比成長率の中央値は38%であったのに対して、Zoomは108%と圧倒的でした。
さらに、これらの企業の直近12ヶ月の収益の中央値である1億9,200万ドルよりもZoomの収益は70%以上大きいことも印象的です。
上記はCAC(訳者注:Customer Acquisition Cost / 顧客を一人獲得するのにかかった費用)をもとに算出されたペイバック・ピリオド(訳者注:顧客獲得にかかった費用の回収までにかかる期間を試算したもの)に関するチャートです。
Zoomは9ヶ月で費用回収ができる試算となっており、上記のSaaS企業の中では最短です。つまりZoomは驚異的なスピードで成長するだけでなく、最も効率的なビジネスができているとも言えます。
Zoomは前述のグループの中でも最高の営業利益率を保っています。過去12か月のGAAPベースで営業利益率は2%で、どのSaaS企業よりも優れていました。
継続して前四半期と比べて15%以上の成長を続けています。
Zoomは前四半期に6270万ドルのNet New ARR(訳者注:新規で獲得した年間定期収益からエクスパンションとコントラクションを差し引いたもので)を獲得し、直近1年間で2億ドル以上のNet new ARRを獲得しました。
Zoomは驚異的なビジネスを展開しています。「ただ、うまく機能する」ソリューションを提供することで、競争の激しい真新しくもない市場で、かつてないほどの急成長を遂げたSaaS企業となりました。
Zoomの市場戦略はバイラルによるものです。GoogleカレンダーやMicrosoft Outlookカレンダーを使ってZoomのリンク付き会議通知メールを送信するユーザーを通してプロダクトが広がっていきます。
ユーザーはプロダクトが様々なソリューションとシームレスに動作することを体験して、プロダクトに魅了されるわけです。
ビジネス・サマリでも記載したように、年間100万ドル以上の金額を支払う顧客のほとんどが一人の無料ユーザーから始まっています。
Zoomは非常に複雑な技術的問題を解決し、初めて大衆に使いやすい、ビデオ・ファーストのコミュニケーションをもたらしたのです。それによって、急速にエンタープライズ企業に深く入り込んでいるわけです。
本日は驚異的な成長を続けるSaaS企業、ZoomのS-1に関する解説記事を紹介しました。
Zoomの成長の秘訣は「ポジティブなユーザー体験を作り出す好循環」です。
本文でも触れられていたように、多くのユーザーは無料でプロダクトにサインアップして、会議に人を招待します。会議のホストも招待された人もプロダクトを実際に使ってみて、使いやすさと優れた機能性に感動して、追加機能にお金を払うようになります。その輪が広がることでZoomは驚異的な成長を続けています。
そして、この好循環を支えているのはプロダクトが「ただ、うまく機能する」ことです。パケットの40%が損失しても快適な会議体験が得られるよう通信技術を改善するだけでなく、ユーザーから要望があった価値のある機能実装に多くのリソースを割き、また年中無休のサポートなどを通して、「ただ、うまく機能する」プロダクトづくりを行っているわけです。
結果それが、NPS (Net Promoter Score / ネットプロモータースコア)やビジネスの改善につながっていると言えるわけです。そういった意味でも「ポジティブなユーザー体験の好循環」がつくれているかをNPSなどの指標を使ってモニターすることは非常に重要と言えます。
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