グローバルSaaS企業のエクゼクティブに聞く成功のためのKPIの選び方

どうも!ExploratoryのIkuyaです。

SaaSのビジネスに従事していると様々な指標を日々、目にすることになるかと思いますが、集中すべき指標を間違えるとビジネスがうまく成長しないということがあります。

そこで今日はSaaSのビジネスの成長にとって理解しておくべき指標の選択について、多数のSaaS企業のエグゼクティブのコメントつきでまとめられている記事が出ていたので、そちらを紹介します。

  • The Essential SaaS Metrics for Growth - リンク

以下、要約。


SaaSビジネスの成長フレーム

大手コンサルティング会社のマッキンゼーは以下のように述べています。

ソフトウエアやサービスを提供する企業が短期間で10億ドル規模の企業に成長することは珍しくありません。一方で成長し続けるということにはとても難しいことなのです。

多くの場合、SaaSのビジネスが成功しているかは収益で判断されますが、実は500万ドル以上の収益をあげている企業というのはまだ400社しかいません

また大手調査会社のガートナーは成長のためには以下、3つの指標を改善することが重要だと言っています。

  1. 顧客のチャーン
  2. 顧客獲得コスト
  3. 顧客生涯価値

加えてガートナーは以下のようにも述べています。

大事なことは、現在のビジネス状況を考慮して、どの指標に集中するかを適切に決め、それに集中することです。

そういったことが正しくできていないと成長はおろか、その真逆に会社は向かってしまうのです。

例えばキャシュフローが悪化して、その結果、ビジネスが失敗する悪循環に陥ってしまうことがあるわけです。

そこで、この記事ではどのタイミングで・どういった指標に集中したらいいのかといったポイントを紹介していきます。

SaaS企業の定番指標に執着しすぎない

もし、あたなが創業から間もない会社で働いてるのであれば、以下の様な指標を良くするようにアドバイスされたことがあるかもしれません。

  • MRR(Monthly Recurring Revenue / 月間定期収益)
  • CLV(Customer Lifetime Value / 顧客生涯価値)
  • CAC (Customer Acquisiton Cost / 顧客獲得コスト)

しかしながら、このような指標はデータ量が足りないといった理由により、執着しても時間の無駄ということがあります。

例えばReferral Candy(訳者注:リファラルと呼ばれる既存顧客の紹介プログラムのプラットフォームを提供するシンガポールの企業)のグロース担当は以下のように言っています。

プロダクトが初期段階だったこともあり、当時の我々にとって定番の指標は示唆を与えるものではありませんでした。 そもそも情報が足りずLTVやCACの計測ができませんでした。顧客のライフサイクルに沿った指標を取るほど十分な顧客数がいなかったのです。

ファネルの底から計測を始めろ

ではある程度データが溜まってきたら、どうすれば良いかという疑問に対してLead Boxer(訳者注:見込み顧客の管理ツールを提供するオランダの企業)の共同創業者のウォルト・フランセンは以下のように述べています。

データが溜まってきたら、まずはファネルの底から、つまりは成約した案件のコンバージョン率から計算をすべきだ。

ファネルの底から始めることで1回の受注に必要な案件・見込み客・トライアル・Webトラフィックおよびキャンペーン数を理解することができるわけです。

他の指標はしばしば意味のない基準であり、無視する必要があります。

MQLに集中しすぎるな

うまくいっているSaaS企業というものはマーケティング組織とセールスの組織がうまく連携しているものです。ただし、MQL(Marketing Qualified Lead / マーケティング活動によって得られた見込み客のリスト)を増やすことに集中しすぎると購買意欲の低い顧客リストを営業に渡すことになります。

実際問題、90%のMQLは製品に対する購買意欲が高まりきっていないなどの理由でSQL(Sales Qualified lead / 内勤営業がアクション・精査して外勤営業に渡すリスト)に至らないということがあります。

Nutshell(訳者注:CRMのプラットフォームを提供する米国企業)のコンテンツ・マネージャーは以下のように述べています。

マーケティングがモニターする指標の全てはコンバージョンに影響を与えるかどうかが重要なポイントです。

その中でも最も見るべきはSQLがどれだけ生まれたかということです。

高品質なリードがどこからもたらされているかを理解しろ

リードの精度が向上したのであれば、次は購買意欲の高いリードがどこからもたらされているかを理解する番です。

Getapp(訳者注:ビジネス・ソフトウエアの比較・レビュープラットフォームを運営するスペインの企業)によるとリードの品質管理がSaaSの企業にとって最も頭を悩ませている問題の一つになっています。そのためどのソースが一番受注しやすいリードをもたらすかを計測することは非常に重要です。

例えばFastspring(訳者注:eコマースのプラットフォームを提供する米国企業)のマーケティングの最高責任者は以下のように述べています。

多くの企業がリードをソース別にモニターせず、リード数全体の数字のみをトラックしています。そしてMQLが増えることが収益に直結すると考えています。

しかしながら実際のところ、コンバージョンしたリードがどこからもたらされているのかを理解しなければ、それは何の意味もないことです。

とあるキャンペーンに関するABテストをしたとして、リードを最も多く獲得した方をテストの勝者として考えてしまうかもしれません。しかしながら実はそのリードが最終的にコンバージョンするかどうか含めて、長い視点で評価することが真の意味で重要なのです。

リード獲得に大きく貢献したページが必ずしも、ビジネスの成功を意味しているわけではないのです。

Instapage(訳者注:ランディング・ページ最適化のプラットフォームを提供するシリコン・バレー企業)のコンテンツマネージャーも以下のように加えます。

もしユーザー・フォームに入力が沢山あったとしても、それがSQLになり最終的に収益が増えないのであれば、それは本当の意味でキャンペーンが成功したと言えるのでしょうか?

一つの指標に集中しろ

Totango(訳者注:顧客のオンボーディング体験の改善に役立つプラットフォームを提供するシリコン・バレー企業)の調査からもSaaS企業はあまりに多くの指標をトラックしていることが分かっています。

一方でもし指標を一つだけに絞ったらどうなるのでしょう。

Ahrefs(訳者注:SEO分析ツールを提供するシンガポール企業)のチーフ・マーケティング・オフィサーは以下のように答えています。

Ahrefsは過去3つのプラットフォームを使って、様々な角度でコンバージョンを分析していましたが、North Star 指標にだけ注目することにしました。

具体的に彼らは月間定期収益の成長だけに集中することにしました。多様な角度でコンバージョンを分析できるよう複数のツールを契約していましたが、North Star指標に集中するようになってから、彼らがそれらのツールを再度、利用する必要に迫られたことはありません。

Harver(訳者注:採用管理のプラットフォームを提供する米国企業。)のマーケティング・リーダーもNorth Star指標の有用性について以下のように同意しています。

Harverでは、システムに登録される採用候補者の数のみを調べます。「この数が増え続けている場合、それは我々が全面的に良い仕事をしていることを意味します

チャーン率は低ければいいわけじゃない

とある調査によると55%のSaaS企業が顧客を維持すること、すなはちリテンションを戦略的に重要なものとして位置づけています。そのことからも分かるようにリテンションを左右するチャーンに関する指標はSaaS企業にとって重要です。

しかしチャーン率だけに注目するのは賢明ではありません。100人顧客を抱えるSaaS企業にとって、2%のチャーンは最初は問題ではないと思うかもしれません。

しかし、もし50万の顧客がいるのであれば、それは1万人の顧客のチャーンを意味するわけで、顧客の多くが入れ変わるビジネスは長続きするとは言えません。

Profitwell(訳者注:顧客セグメントの可視化プラットフォームを提供する米国企業)のCEOは下記のように述べています。

成長、つまりは顧客の獲得ばかりに集中しすぎると、チャーンの問題から目をそむけることになり、やがてそれが大き問題となります。

このような悪しき習慣は特に初期のSaaS企業に起こりがちです。

なぜなら新規顧客での埋め合わせが簡単にできてしまうからです。

多くの企業は製品がある程度の品質に至るまで解約について考えません。その結果、大きな問題が発生します。というのもの仮に企業が成長して、数百人規模の会社になってしまった場合、その会社のDNAを変更することは容易ではないからです。

ではどうすればいいかと言うと、例えばユーザーの数ではなく、ロイヤリティをモニターしておくということができます。

成長路線に入ったらNet Revenue Retentionを追え

NRR(Net Revenue Retention / 今月獲得した売上が来年の今頃にはどの程度になるのかを示す指標)はSaaSの成功を語るうえで最も語られることが少ない指標と言えます。

NRRはチャーンやエクスパンジョン、コントラクションを踏まえて、対象の企業群からの売上がどの程度変化したかを表す指標です。

例えば、高い成長率を維持しているSaaS企業のNRRの中央値は101%となっています。

Spark Capital(訳者注:ベンチャー・キャピタル。Twitterなどに出資)のアレックス・クレイトンはNRRについて以下のように述べています。

NRRによって、企業が抱えている問題を見抜くことできます。

仮にARRが毎年100%以上成長していたとしても、NRRが75%なのであれば、それはビジネスに何か問題があるということです。

NRRはビジネスの影響を長期的に左右するもので、上場するような企業はNRRが100%以上であることが多く、いくらかの企業は150%だったりもします。

まとめ

SaaS企業の成長を理解するための指標というのは数百あります。重要なのはどのようなタイミングで、どのようなような指標を選択し、それに集中するかということです。

また、どのようなリーダーも口を揃えて言うのは、多くの指標に惑わされず、シンプルな指標に集中することが重要だということです。

仮に指標をNorth Star指標に集約することで、分析レポートが減ることになったとしても、コンバージョンや収益を増やす指標にだけ集中するべきです。

初期の段階でそういった成長を促す指標を見つけることができると、意味のない指標を追いかけることで時間を浪費せず、早いスピードで成長していけるわけです。


あとがき

本日はSaaSのビジネスの成長にとって理解しておくべき指標の選択についての記事を紹介をしました。

繰り返しになりますが、大事なのは数百とある指標の中から、今の自分たちにとって最適な指標を選択し、それに集中していくということです。

そして一度、自分たちが集中する指標を決めたら、次はその指標に影響を与えることのできる別の変数をデータから探していくことです。

ではどのようにして、それらの変数を探していくのかと言うと、統計や機械学習のアルゴリズムと業務知識を掛け合わせることで、アクションに結びつけることができるインサイトを効率的に得ていくことができるのです。


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