SaaSを始めとするクラウドサービスでは、継続してサービスを使ってもらうこと、言い換えればリテンションが重要です。
しかし、ビジネスによってはサブスク型ビジネスの毎月の課金ように、サービスの継続利用にあたって明確なイベントがないこともあります。
例えば、サービスの利用の度に費用が発生する従量課金型のビジネスや、広告で収益をあげるビジネスの場合、ユーザーのキャンセルといった明確なイベントがないため、顧客のリテンションをどのように測るかを決める必要があります。
そこで、自身のスタートアップをAirbnbに売却後、Airbnbのグロースを担当し、現在は米国のスタートアップ界隈で最も有名なニュースレター「Lenny’s Newsletter」を運営するLenny Rachitskyがビジネスのタイプに合わせたリテンションの測り方をまとめていたので、こちらに要訳として紹介します。
ビジネスの話をするとき、多くの人がリテンションの話をしていますが、実際のリテンションの測り方については曖昧な話も多く、特にコホート(訳者注:サービスの利用開始時期で顧客を分けたグループ)のリテンションの話になると、正確かつ参考になるガイドはありません。
リテンションがビジネスの成長にとって非常に重要であることや、リテンションの測り方を間違えると多くのコストがかかることを考えると、これは大きな問題です。
そこで、この投稿ではリテンションの測り方やレポート作成の際のコツを紹介します。
初めに、リテンションは長期にわたってユーザーにサービスを継続してもらえるプロダクトの力を測る指標です。
また、リテンションの定義は以下のように、提供するビジネスによって異なります。
image.png
そこで、リテンションを測るための手順をステップごとに紹介します。
上記の表のように、リテンションを測るときは、ほとんどの場合、「アクティブユーザー」に注目していますが、「アクティブ」とはどのような状態を指しているのでしょうか。
例えば、以下は「アクティブ」を定義するイベントの例ですが、それぞれに欠点や制約があります。
ほとんどの企業は、「ログイン」または「アプリの起動」を、「アクティブユーザー」と定義するためのイベントとして利用しますが、私は正確にリテンションを計測できる、「主要なユーザーアクション」を利用することをお勧めします。
なお、以下は、様々なサービスの主要なユーザーアクションを参考例としてまとめたものです。
image.png
このアプローチには以下の長所があります。
また、ビジネスモデルに関係なく、主要なユーザーアクションを使ってリテンションだけでなく、DAU、WAU、MAU、DAU/MAU 比率などの指標をモニターすることもお勧めします。
「アクティブ」の定義を決めたら、次は、アクティブユーザーを「無料ユーザー」と「有料ユーザー」に分け、これらのグループごとにリテンションを計測します。
このとき、「プロダクトやサービスにお金を払っている個人またはグループ」が「顧客」と定義される一方で、「プロダクトやサービスを利用する人」は「ユーザー」として定義されます。
例えば、サブスクリプション型のプロダクトでは、「一顧客」に複数人の「ユーザー」が紐付いていることがあります。そのため、リテンションを計測するときの分子は、ビジネスモデルに応じて以下のように厳密には定義されます。
image.png
アクティブな顧客やユーザーが誰か(例えば、運動の結果を記録した有料顧客や、記事を読んだ無料ユーザー)がわかると、彼らのリテンションを測ることができるようになるわけです。
SaaS企業がよく犯す間違いは、無料ユーザーと有料顧客が混在する「混合型」のリテンションを報告してしまうことです。なぜなら、製品にお金を払っている顧客は、無料ユーザーよりも頻繁にサービスやプロダクトを使用している可能性が高いからです。
両者を同じように扱うと、無料ユーザーの実態が隠れてしまいます。
次に、リテンションを測るときに、以下のどちらのアプローチを採用するかを決めます。
どちらを採用するかによって、その結果は大きく変わります。
X日 (N日または 「bounded」とも呼ばれます)のリテンション は、「特定の日(例: 3日後)」にプロダクトに戻ってきたユーザーの割合を表します。例えば、「14 日目」にプロダクトに戻ったアクティブユーザーの割合は次の通りです。
image-20221224195137398.png
上記の例では、1日目(ダウンロードから24時間後)にプロダクトに戻ってきたユーザーの割合は21.06%で、2日目にプロダクトに戻ってくるユーザーの割合は、16.82%になっています。
なお、この計測方法を採用した場合、リテンション率は基本的に低くなります。
無制限のリテンションでは、 特定の日「以降」 にどの程度のユーザーが戻ってきたかを計算します。例えば、プロダクトを使い初めてから14 日後以降 (必ずしも 14 日目とは限りません) にプロダクトを利用しているユーザーの割合が計算されるわけです。
リテンションと顧客のキャンセル(チャーン)を一致させたければ、こちらの計算方法を採用することになります。
以下のチャートはX日間のリテンションと無制限のリテンションを可視化したチャートですが、どちらのアプローチを採用するのがいいでしょうか。
image.png
リテンションと顧客のキャンセル(チャーン)が連動していて、レポートの信憑性が高まる点において、私のお気に入りは無制限のリテンションを使った計測方法ですが、分析の目的とユーザーのプロダクトの利用パターンに合わせた計測方法を選択する必要があります。
例えば、
なお、私の経験上、SaaSプロダクトの場合、特定の時間の制限(例:有料サブスクリプションの長さ、試用期間など)を受けるので、X日のリテンションを利用することをお薦めします。
一方で、B2CまたはSNS関連のビジネスに携わっている場合は、より柔軟な無制限のリテンションを利用することをお薦めします。
最終的には以下のようなデータを作ることになります。
image.png
また、もし、コホート分析(ユーザーを、プロダクトやサービスの継続期間でグループに分けリテンション可視化する分析)を実施したいようであれば、以下のようなデータを用意することになります。(訳者注: UIツールのEpxploratoryを使うと、こういった集計データを用意することなく、コホート分析を実行することが可能です)
image.png
採用するリテンションのタイプを決めてデータを取得したらリテンションを可視化します。
ユーザーを利用開始日あるいは利用期間(日、月、年など)でグループに分け、さらにユーザーをセグメント(例: 試用者、再購読者、パワー ユーザーなど)に分けてリテンションを可視化するコホート分析は強力です。
また、リテンションの可視化では、以下のようなラインチャートがよく利用されます。
image.png
ダッシュボードを使ってリテンションをモニターする場合、シンプルなナンバーを用意することもお薦めします。
image.png
さらに、リテンションの推移を報告するときに最もよく利用される方法の1つに、以下のようなテーブルを使った形式があります。
image.png
上記のチャートでは、週ごとの新規顧客数と、その後の週ごとにプロダクトやサービスの利用を継続した、言い換えれば、リテンションできている顧客の割合を表しています。
このチャートは「新規顧客」のみにデータをフィルターした結果ですが、アクティブユーザー、解約したユーザー、非アクティブなユーザー、再度サービスの利用を開始したユーザーごとにリテンションをレポートする方法もあります。
このようにセグメントに分けて、リテンションをモニターすると、セグメントごとに、リテンションが大きく変わることが予想され、どういった顧客がサービスやプロダクトを使い続けてくれるのかを理解できます。
そのため、可能であれば、ユーザーを常に異なる行動セグメントに分ける必要があります。
よりデータを活用できている企業では、プロダクトチームは特定のユーザーセグメントのみに刺さる新機能を見つけ、テストし、リリースするわけです。
以上、要約終わり。
サブスクリプション型のビジネスに特有な指標の作成・可視化や分析の手法を、コードを書くことなく、ハンズオンを通して短時間で学んでいただけるコンテンツをまとめています。
サブスクリプション型のビジネスのご担当者様は、ぜひご覧ください!
SaaSなどを始めとするサブスクリプション型ビジネスにとって重要なKPI、データの加工、可視化、統計・機械学習といった様々なデータサイエンスの手法やシリコンバレーなどでの事例を1つのページにまとめて公開しています。
img
こちらも、ぜひご覧ください!