中国のユニコーンの生育環境を分析する。

目的

ユニコーンが育つにはユニコーンが好む食べ物(=社会イシューや政治イシュー)の存在が必要だ。そして、その好む食べ物はユニコーンのいる国によって違うはず。なぜなら、国それぞれで経済的・社会的・思想的な差異があるからだ。

例えば、日本なら

  • 少子高齢化
  • 各産業の低生産性
  • 稟議書の決裁リレー(!!)

ユニコーンはこれらのイシューを巧みに見つける。そしてそれを食べて大きく育つはず。

今回は中国のユニコーン企業がどのようなイシューを食べて成長しているかの分析してみる。

これは、exploratoryの2019年10月お題をベースにしている

問題設定

以下のバブルチャートは、中国とアメリカのユニコーンに限定して、どの産業・分野で何頭のユニコーンがどのくらいの大きさで存在しているかを表している。 (横軸が産業種、縦軸がユニコーン企業(頭)数)

赤枠で囲っている部分に注目してほしい。 どうやら中国はFintechとInteret software&servicesがユニコーン数と大きさ共に少なく、低いようだ。 これの理由を探る。

安心してくれ。皆がわかるように書いたつもりだ(←こういうこと書くと、読む人の読む気力が少し回復するらしい)

中国ユニコーンの生育仮説

中国でFintechとInteret software&servicesのエリアでユニコーンが少ない理由に対して以下の仮説を立てた。

  1. 中国巨大企業による金融・インターネット市場の寡占・独占状態
    アメリカのGAFAに追いつき・追い越せの勢いで、中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)が伸びている。 これらの巨大企業群がユニコーンの生育に与える影響を分析する。

  2. 米中対立 による技術共有の鈍化
    米中対立以前から起きているアメリカ企業の中国本土からの排斥運動は、トランプ大統領の就任で更に悪化・激化している。これによる中国ユニコーン達のハンデを分析する。

  3. 中国特有のイシューにフォーカスした別種ユニコーンの存在
    FintechとInteret software&servicesでは、頭数が少ない中国ユニコーンだが、一方でAuto & transportationのエリアでは多くの中国ユニコーンがすくすく育っている。この背景を分析する。

これらを順に検証していく。

1.中国巨大企業による金融・インターネット市場の寡占・独占

既存産業に対してデジタルディスラプションを起こすことがユニコーンの生育に必要な条件ならば、中国の金融・インターネット市場はその条件に適合しないかもしれない。なぜなら既にそこには今なお成長している鋭敏な元ユニコーンが2頭いるからだ。

アリババ集団とテンセントだ。

中国のスマホ決済の国内浸透のスピードは脅威的だ。下図のチャートが示すように、中国でのスマホ決済ユーザーの利用頻度は”毎日利用”が2017年時点で既に80%近くある。この勢いを鈍化する事案は聞いておらず、2019年には更に割合は上昇しているはずだ。

(引用先資料 図51

では、このスマホ決済で躍進しているのはユニコーンなのか?

そうではない。

中国の元ユニコーンの巨大企業だ。中国にはアリババ集団傘下のAlipayおよびテンセント傘下のWeChat Payという巨大な第三者決済事業者が存在しているのだ。

そして、この2社プロダクト(Alipay, WeChat Pay)でモバイル決済の9割を占めている。

下図の円グラフは巨大企業での市場の寡占・独占状態を表している。

(引用先資料 図62

この、2社は規模が非常に大きい上にデジタルトランスフォーメーションやデジタルディスラプションといったバズワードに抵抗を示したり、無視するようなことはない。良いモノ・サービス・技術は貪欲に取り入れるイノベイティブな企業だ。 彼ら自身がその先導者・先達といっても過言ではない

こんな先輩ユニコーン上がりが市場を席捲している中で、あえて同市場に挑戦するユニコーンは少なくて当然だ。

むしろ、彼らの生息域で誰も知らない良い餌場をこっそり見つけたなら、彼らにそのアイデアが希少であることを強調して話して一緒にビジネったほうがスピード・コスト・スケール的に現実的だろう。

一方で、アメリカはどうなのかというと、Fintech市場に関してはスマホ決済が浸透していないらしい。 キャッシュレス決済の手段としては、クレジットカードやデビットカード・小切手が主流になっており、スマホ決済を主流というところまでには至っていない。3

この点では、アメリカではFintech分野でユニコーンが多く・大きく育つ条件は整っているのだ。

つまり、

  • 中国のFintech、Interet software&services市場は巨大企業が席捲しており、ユニコーンが育ちにくい。
  • アマメリカのFinteh市場に関しては、まだ成長初期段階であり、ユニコーンが生育しやすい。

と考えられる。

なお、この章は中国におけるキャッシュレス化の現状と課題~O2Oマーケティングの可能性~ を大いに参考にさせていただいている。

2.米中対立による巨大プラットフォーマーの欠如

巨人の肩にのる
車輪の再開発はしない

この二つの格言が喚起していることは、「利用できるもんだはさっさと利用しろ」ってことだ。 既に市場に適正価格(あるいは破格)で提供されている技術・サービスをわざわざ自社開発していては、スピード・コスト・社会全体の生産性から言ってナンセンスだ。

特に、大手企業に比べて体力が低いユニコーンなら、ユニークなアイデア・技術に特化してビジネスをしていくべきだ。

それらを助けるため(という大義名分で)、大手IT企業は多くのクラウドサービスを提供している。

  • AmazonのAWS
  • GoogleのGoogle Cloud
  • MicrosoftのAzure

などがある。

これらを利用すれば、大量のデータの高速処理やサーバーレスなインフラの構築、高性能な機械学習APIを自分たちで用意せずにすむ。

しかし、中国での利用となると話が違ってくる。4

米中対立が存在しているのだ。

米中対立以前でも、既に中国でGoogle,Facebookが使えない問題があったが、トランプ大統領と習近平国家主席の間のバチバチでより広範囲に影響がでている。

一つの例として、アメリカからアジア圏への渡航者数の推移を下図に示す。データはオープンデータであるITA(International Travel&Tourism office)を利用した。

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青線は2010年から2017年の間に渡航者数が減少した国、赤線は増加した国である(回帰分析結果)。中国は分かりやすく黄色にしている。 中国、韓国、香港、台湾の北アジア圏は減少傾向。 タイ、フィリピン、インドネシア、ヴェトナムの南アジア圏は増加傾向になっている。

上のチャートの補足資料として、線形回帰の分析結果(係数(有意)のみ)を下に示す。

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さらに、中国からアメリカへの渡航者は減少はしていないが高止まりしている5。前年比成長率としてはゼロからマイナスに転じている。

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つまり、アメリカと中国間の渡航者数は減少しているのだ。世界の双璧となるアメリカと中国間で、このような状況になるのは、アメリカとソ連の冷戦を想起させる。むしろ、双方並び立つ存在は仲良くやっていくのが難しいということか。

話が逸れたが、このようにアメリカと中国の間で関係悪化が続くと、IT先進国のアメリカの技術を中国企業が利用するのは難しくなる。 先に述べたアリババやテンセントも、IT先進企業としてクラウドサービスの提供を行っているがGAFAのサービスに対しては後塵を拝している状況だ。

結果として、中国のユニコーンはそれらのクラウドサービスによるエンハウスメントが効きにくい・不要な産業で、育ちやすいといえるかもしれない。

中国ユニコーンはどこで生育するのか

今までの分析からFintechやInternet software & servicesでは中国のユニコーンは育ちにくいことが分かってきた。

それでは、どこで育つのよって話だ。 改めて、最初に挙げたアメリカと中国のユニコーン企業の評価額と企業数のバブルチャートをみてみよう。

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中国ユニコーンで、評価額・企業数ともにアメリカを抜いているのはAuto & transportationの産業だ。

なぜ、中国ユニコーンはここに集まり、成果を出しているのか?

実際に中国でAuto & transportationに属するユニコーンがどのようなビジネスモデルを持っているか、さっくり調べてみた。(一つずつググった・・・数が少なくて良かった)

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有名なところは配車サービスを行っているDidi Chuxing(滴々)だろうか。

興味深いのは、EV(電気自動車)の販売・技術に関するユニコーンが半分以上を占めることだ。他のユニコーンもほとんどが配車・自動車サービスに関するものだ(唯一、Danke Apartmentのみが不動産関連だった)

これらのユニコーンが存在する理由として、以下が考えられる。

  • 中国版テスラを夢見ている6 (将来、テスラ効果ならぬ”滴々効果”がバズワードになるかもしれない)
  • 公害・大気汚染への打開策
  • エネルギー枯渇・奪い合いに対する打開策
  • 国土が広く、交通ルールも緩いため公道実験などの公開研究開発に適している

このあたりの分析は、今後深掘りしていく。

まとめ

今回、中国のユニコーンがどのような環境で育ちやすいか中国の市場分析、米中対立など幅広く外部データを使って、以下のような仮定・検証を行った。

  1. 中国のFintech,Internet市場は寡占・独占状況 → 中国ユニコーンが入る余地がない。
  2. 米中対立 → 中国のユニコーンは有用なAmazonやGoogleのクラウドサービス・プラットフォームを利用できない
  3. 中国特有の問題(公害・大気汚染) → 電気自動車・配車サービスのユニコーンが大きく育っている。

おわりに

今回はインサイトを深掘りできた。 色々なインサイトを統合して、一つの大きな仮説を検証していくのはなかな大変だが、やりごたえはある。 注意すべき点は

  • 仮説の検証にはバイアスを入れない。(very hard…)
  • 早い段階で仮説を検証できるデータを集め、仮説を検証できない場合は、方針展開も早い段階で行う。
  • 既に共有されているデータ・知見は引用文献として、ドンドン使う。