国別に見る大学の研究成果の社会・企業への還元の状況

目的

大学で生まれた研究成果を社会に還元にすることは、大学の重要な使命である。今回は4か国(US,UK,JP,CH)に絞って、ビジネス面のインサイトを大学ランキングデータから見ていく。

指標:incomeの定義

大学ランキングデータの指標の一つであるincomeの定義を再確認しておく。 データの列名であるincome(= industry income)の定義は、kaggleのダウンロードページから辿っていくと、以下の内容のようだ(google翻訳)1

Industry income (knowledge transfer): 2.5%

このカテゴリでは、機関が業界からどれだけの研究収入(PPP用に調整)を得ているかを調査することによって、そのような知識移転活動を捉えようとします。

このカテゴリは、企業が研究のために支払う意思のある範囲と、商業市場で大学が資金を引き付ける能力を示しています。これは、機関の質の有用な指標です。

この指標を使えば、その大学が研究成果をどの程度企業(広義に言えば社会)に還元しているかが分析できそうだ。

分析方針

今回注目したのは、アメリカ、イギリス、日本、中国の4か国。これらの国は経済発展国であるので、活発な市場の中で大学のかかわり方に違いがあるのか見てみることは興味深い。

なお、World Rankは数字の”小さいほう”が、ランキングが上位になるが、分析上その性質は扱いにくかったので、World Rankを決定するTotal Scoreを大学ランキングの代替指標にした。こちらは数値が大きいほど、ランキングが高くなるので分析しやすい。

チャート分析

下の散布図はcountry別に X軸にincome、 Y軸にtotal score を取ったもの。

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国ごとに、分布の仕方がユニークで興味深い。 ここで分かることは以下の通り。
1. 中国はincomeが大きい大学群と、そうでない大学群が明確に分かれている。
2.日本はincomeとtotal_scoreの相関が4か国の中で唯一負の相関になっている。つまり、incomeのスコアが大きくなると、total_scoreは下がる。

アメリカ、イギリスも今後の分析次第では面白いインサイトがありそうだが、今回は参考程度に眺めるのに留める。

線形回帰分析

線形回帰分析をして、前述の日本の負の相関のインサイトを詳細にみていく。 目的変数をtotal_score、 予測変数をincome にして、country別に分析した。

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分析からわかること。
1.incomeによる線形回帰モデルはどの国でも有意である(nullモデルに比べて、データを有意な精度で予測できている、有意水準5%) 2.日本のみ、係数は負である

(日本の)考察

日本だけが、incomeスコアの上昇で、total_scoreが下がる傾向になった。total_scoreが下がるということは、world_rank(大学ランキング)が下がるということ。

このインサイトから二つの仮説を立てる。
1.(As negative opinion)ランキング上位の大学は、典型的な学者集団の集まりで、ビジネスに関係のない勉強ばかりしている。
2.(As positive opinion)ランキング上位の大学は、基礎・理論研究が中心で、ビジネスに結び”つけにくい”ことを先進的にやっている。

この仮説に関しては、学内ベンチャーの数や、研究内容のジャンル、産官学連携の数などで分析・検証できるかもしれない。

結論

日本はアメリカ、中国、イギリスとは異なり、incomeスコアが上がると、大学ランキングが下がる傾向にある。

注釈


  1. 本文の引用はデータの大もとのサイトでの定義です。 https://www.timeshighereducation.com/news/ranking-methodology-2016
    EDA Salonとしてのデータの場所 https://exploratory.io/data/kanaugust/University-Ranking-Data-XaX2Fyo8zs
    さらに、そのリンク先(Kaggle)のダウンロードページでのincomeの定義は以下の通り(スクショ)。