SaaS KPI シリーズ - チャーン率/リテンション率

前回はコンバージョンに関連する指標やコンセプトを紹介しましたが、今回はチャーン(キャンセル)やリテンションに関連するいくつかの指標を紹介していきます。

SaaSビジネスにおいて、チャーンとリテンションは顧客の継続利用状況を示す重要な指標です。チャーンは既存顧客が解約してサービスの利用を停止することを指し、リテンションはその逆で、顧客がサービスを継続して利用している状態を表します。

新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客の維持がSaaSビジネスの持続的な成長には不可欠なため、これらの指標は、特に事業責任者、製品担当者、カスタマーサクセスチームにとって重要で、定期的にモニタリングする必要があります。

新規顧客の獲得とビジネスの成長

例えば月額1万円のSaaSサービスを例に考えてみます。

このようなサービスでは、新規顧客を獲得すればするほど、MRR(月間定期収益)は増えていき、ビジネスは成長します。

例えば1月に1万円だったMRRは、2月に2名の見込み顧客のコンバージョンが発生することで、3万円になります。

そして翌月の3月にまた新たに1名の顧客のコンバージョンが発生することで、MRRは4万円となるわけです。

チャーン(キャンセル)

では新規顧客を獲得したら、その分だけビジネスが常に成長するかというと、必ずしもそうではありません。

なぜなら顧客はいずれサービスを解約するからです。

このように、顧客が解約することをSaaSの世界ではチャーンと呼びます。

そしてチャーンが発生することで、元々得られる予定だったMRR(月間定期収益)は減ることになります。

3月の収益減

例えば上記のケースだと、3月に1人の顧客がチャーンしているので、元々見込まれていた収益より収益は1万円減ることになります。

4月の収益減

4月も1名の顧客のチャーンが発生して、元々見込まれていた収益は1万円減ることになるわけです。

このチャーンに伴う収益減のことをSaaSの世界ではチャーンMRRと呼びます。

このように、SaaSのビジネスの成長は新規顧客から得られるニューMRRだけでなく、チャーンMRRによっても左右されることになるわけです。

ネット・ニューMRR

では、具体的SaaSのビジネスの成長は何によって決まるかと言うと、ニュー MRRチャーン MRRによって決まります。

ビジネスが停滞するケース

例えば3月のMRRに注目すると、1万円のニューMRRとチャーンMRRが発生しています。

ただし2月から3月にかけてのMRRは変化していません。

これはニューMRRによる増収が、チャーンMRRによって減ってしまうためです。

このようにニューMRRとチャーンMRRが等しいとき、MRRの増減は発生せず、言い換えればビジネスは停滞すると言えます。

ビジネスが成長するケース

4月のMRRに注目すると、2万円のニューMRRと1万円のチャーンMRRが発生しています。

また3月から4月にかけてのMRRは増加しています。

これはニューMRRによる増収が、チャーンMRRを大きいためです。

このようにニューMRRがチャーンMRRより大きいとき、MRRは増え、ビジネスは成長するわけです。

ビジネスが後退するケース

仮に5月のMRRが3万円になる上記のようなケースではどうでしょうか。1万円のニューMRRと2万円のチャーンMRRが発生しています。

そして、また4月から5月にかけてのMRRは減少しています。

これはニューMRRによる増収が、チャーンMRRを小さいためで、ニューMRRがチャーンMRRより小さいとき、MRRは減り、ビジネスは後退するわけです。

このように、SaaSビジネスが成長するかどうかはニューMRRからチャーンMRR差し引いた収益で決まるわけです。

この指標のことをネット・ニューMRRと呼びます。

なお、ネット・ニュー MRRは、ビジネスから成長を表す指標のため、当月のMRRと前月のMRRの差ということもできます。

チャーン率

これまで見てきたように、SaaSビジネスの成長のためには、新規顧客のコンバージョンを増やすだけでなく、チャーンする顧客の数、もしくはチャーンMRRを減らすことが重要になってきます。

そこで、チャーンした顧客の割合を計算することで、その効率をモニターすることになります。この指標のことをチャーン(キャンセル)率と呼びます。

また、特に顧客の数に注目して、チャーン率を計算した指標をカスタマー・チャーン率と呼ぶこともあります。

チャーン率はある特定の期間でチャーン(解約)した顧客を、その期間の総顧客数で割ることで計算されます。

例えば、上記の3月における前月からのチャーン率は25%となるわけです。

リテンション率

チャーン率では顧客の「解約」に注目しましたが、逆に顧客の「継続」に注目することもあります。

そして、顧客がサービスを継続することをリテンションと呼び、顧客の数に注目して、リテンション率を計算した指標をカスタマー・リテンション率と呼ぶこともあります。

リテンション率とチャーン率の間には、解約した顧客に注目するか、サービスを継続した顧客に注目するかの違いしかありませんので、同じように計算することが可能です。

チャーン率とリテンション率の計算方法

ここからは、実際のデータを使ってチャーン率やリテンション率の計算方法を紹介します。

今回は以下のように1行が1件の支払い情報を表し、顧客ID、支払い日、支払い金額などの情報を含むサブスクリプション型のビジネスの支払いデータを使ってリテンション率を計算します。

なお、データはこちらのページからダウンロードできます。

1. 支払い回数の計算

リテンション率は計算するためには、以下のように、毎月の「顧客数」と「継続顧客数」を集計データを用意する必要があります。

このようなデータを用意できれば、「前月の顧客数」に対する「継続顧客数」の割合を計算して、リテンション率を計算できます。

そこで、問題になるのが「継続顧客数」の計算方法なのですが、仮の今回のデータに顧客ごとの「支払い回数」の列が含まれていた場合、「支払い回数」が2回目以上の顧客の数を月ごとに集計することによって、「継続顧客数」が求められます。

そのために、まずは、顧客ごとの支払い回数の情報を計算します。

顧客ごとの支払い回数を計算するには、「支払い日」の列ヘッダーメニューから「表計算を作成」、「ランキング(隙間なし)」、「昇順」を選択します。

表計算のダイアログが開いたら、今回は顧客ごとにランキングを計算したいので、グループに「顧客ID」を選択し、プレビューボタンをクリックします。

最後に値の列名を、「支払い回数」に変更し、実行します。

これで各支払いが何回目の支払いなのかを計算することができました。

2. 顧客の総数と継続顧客数の集計

月ごとの顧客数を集計するため、以下の手順で操作します。

「支払い日」の列ヘッダーメニューから「集計」を選択します。

集計のダイアログが開いたら、支払い日の単位を「月」に変更します。

値に「顧客ID」を選択し、集計方法を「一意な値の数(UNIQUE)」にします。

列名を「顧客数」に変更して実行します。

次に継続顧客数を計算するために、値に「顧客ID」を追加し、集計関数に「条件にあった一意な値の数(COUNT_UNIQUE_IF)」を選択します。

条件の設定ダイアログが開いたら列に「支払い回数」、演算子に「以上」、値に「2」を設定します。

列名を「継続顧客数」に変更して実行し適用し、実行します。

月ごとに顧客の総数と継続顧客数を集計できました。

3. リテンション率の計算

最後にリテンション率とキャンセル率を計算します。

このとき問題になるのが、どのようにして「前月」の「顧客数」を計算するか、なのですが、lag関数を使うことで、前の行の値を取得することが可能です。

継続顧客数の列ヘッダーメニューから「計算を作成」の「標準」を選択します。

計算式に「継続顧客数 / lag(顧客数)」を入力し、列名を「リテンション率」に設定します。

これでリテンション率を計算できました。

4. チャーン率の計算

チャーン率(キャンセル率)を計算したい場合、「リテンション率」の列ヘッダーメニューから「計算を作成」の「標準」を選択します。

計算式に1 - リテンション率 を入力します。

「新しく列を作成」にチェックが付いていることを確認したら、列名を「チャーン率」あるいは「キャンセル率」に変更して実行します。

これでチャーン率(キャンセル率)の計算が完了しました。

チャーン率の罠

ところで、チャーン率やリテンション率だけをビジネスの指標として追っていると、ビジネスの問題を適切に把握できていないことがあります。これは、多くのスタートアップが犯してしまう間違いです。

というのも、例えば前月からのチャーン率やリテンション率はサービスの利用期間に応じて変わってくるものなので、全ての顧客をまとめて、それらの指標を計算しても、意味のある指標にならない、ということがあります。

そこで、顧客をサービスの購読タイミングごとにグループに分けて、そのグループごとの生存曲線を見ていくことになるのですが、それについては次回以降でもう少し詳しく見ていきたいと思います。

お楽しみに!


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