一般化線形モデル - GLM - 逆ガウス分布の使い方

一般化線形モデル(GLM)の逆ガウス分布は、正の値を持ち、右に裾が長い分布を示すデータの分析に特に適した手法です。特に、時間や距離、金額など、0以上の値を取り、少数の大きな値が存在するような現象のモデリングに効果的です。通常の線形回帰モデルでは適切に扱えない非対称な分布を持つデータに対して、より精度の高い予測と解釈を可能にします。

この手法の特徴的な点は、データの分散が平均の3乗に比例するという性質を持つことです。これは製造プロセスの所要時間、機器の故障までの時間など、値が大きくなるほどばらつきも大きくなる傾向がある現象をモデル化する際に特に有用です。従来の正規分布を仮定した分析では、このような特性を持つデータの分析は困難でしたが、逆ガウス分布を用いることで、より現実に即した分析が可能になります。

逆ガウス分布の活用により、極端な値の影響を適切に考慮しながら、変数間の関係性を正確にモデル化することができます。例えば、製造プロセスにおける加工時間の予測や、保険金支払額の予測モデルの構築など、実務的な場面で広く活用されています。また、モデルの解釈が比較的容易であり、各要因が目的変数に与える影響を具体的に評価できることも、この手法の大きな利点となっています。

1. どういった時に使えるのか

逆ガウス分布GLMは、正の値のみを取り、分布が右に裾を引く特徴を持つデータの分析に特に適しています。例えば、製造業での製品加工時間の分析では、標準的な処理時間から大きく外れる長時間の加工ケースが存在する場合があります。このような場合、通常の線形回帰では適切にモデル化できませんが、逆ガウス分布GLMを使用することで、より正確な予測と要因分析が可能になります。

また、保険業界での保険金支払額の分析においても、多くの請求が比較的小額である一方で、少数の高額請求が存在するケースがあります。このような非対称な分布を持つデータに対して、逆ガウス分布GLMは効果的な分析手法となります。さらに、機械の故障時間分析や、サービス業での顧客対応時間の分析など、時間に関連する変数で右に裾の長い分布を示すデータの分析にも適しています。

代表的なデータ例としては以下のようなものが挙げられます:

  • 製造工程における製品の加工時間データ(基本情報、作業条件、品質情報など)
  • 保険金支払いに関するデータ(請求額、契約者属性、事故状況など)
  • 機械設備の故障までの稼働時間データ(運転条件、メンテナンス履歴など)
  • カスタマーサービスの対応時間データ(問い合わせ内容、顧客属性、対応履歴など)

2. ユースケース

  • 製造業での使い方

    • 製造業では、製品の加工時間の変動要因を分析する際に使えます。
    • 具体的には、作業者の経験年数、機械の稼働時間、環境条件などが製造時間にどのように影響するかを分析する時に逆ガウス分布GLMを使うことで、各要因の影響度を正確に把握できるようになります。
    • これにより、製造時間の短縮に向けた重点改善項目の特定や、新規製造ラインの設計時の参考指標として活用できます。
  • 保険業での使い方

    • 保険業では、保険金支払額の予測モデルの構築時に使えます。
    • 具体的には、契約者の属性、事故の種類、過去の請求履歴などから支払額を予測する時に逆ガウス分布GLMを使うことで、高額請求のリスク要因を特定できるようになります。
    • これにより、リスク評価の精度向上や、保険料率の適正化といった施策を実施する際の根拠として活用できます。
  • オペレーション管理者での使い方

    • オペレーション管理者は、物流倉庫での商品ピッキング時間の分析時に使えます。
    • 具体的には、商品のピッキングにかかる時間を目的変数として、商品の保管場所、注文数、作業者の経験、時間帯などの要因が与える影響を分析する際に逆ガウス分布GLMを使うことで、作業時間の変動要因を特定できるようになります。
    • これにより、商品の最適な保管レイアウトの設計や、作業者の適切な配置、繁忙期の人員配置計画といった施策立案に活用できます。
  • 品質管理担当者での使い方

    • 品質管理担当者は、製品の検査時間や不具合発生までの時間分析に使えます。
    • 具体的には、品質検査にかかる時間と各種条件の関係を分析する時に逆ガウス分布GLMを使うことで、検査時間の変動要因を特定できるようになります。
    • これにより、検査工程の効率化や、品質管理プロセスの改善施策の立案に活用できます。

3. Exploratoryで一般化線形モデル - GLM - 逆ガウス分布を実行する

使用するデータ

今回は「製造工程データ」を使用します。データはこちらからダウンロードが可能となっています。

このデータは製造業における生産プロセスの記録で、1行が1つの製品の製造記録を表しており、列には「作業者経験年数」「室温」「湿度」「機械稼働時間」「メンテナンス回数」「品質検査回数」「生産効率」といったデータがあります。

一般化線形モデル - GLM - 逆ガウス分布を作るためには、以下のようなデータの構造が必要となります。

  • 目的変数は正の連続値であること
  • 目的変数の分布が右に裾が長い特徴を持つこと
  • 予測変数は数値型(例:経験年数、室温)やカテゴリ型(例: 作業シフト、製造ライン)などの変数を使用します

アナリティクスを作成する

製造工程データから「アナリティクス・ビュー」を開きます。

タイプに「一般化線形モデル」を選び、「GLM - 逆ガウス分布」を選択します。

目的変数には、「製造時間」の列を割り当てます。

予測変数には、「製造ライン」から「製品重量」までの列を選択して割り当てます。

最後に、「実行」ボタンをクリックして実行結果を確認します。

結果の解釈

一般化線形モデル - GLM - 逆ガウス分布では、製造時間に影響を与える要因を解析するために以下のタブが用意されています。

多重共線性

「多重共線性」タブをクリックすると、予測変数間の相関が強すぎる(VIF > 10)組み合わせがないかを確認できます。VIFが10以上の変数がある場合、モデルの信頼性に影響を与える(傾きが不安定になる)可能性があるため、変数の選択を見直す必要があります。

今回の結果は、VIFが10以上のものはないため、予測変数同士に相関が強すぎる変数の組み合わせがないため、モデルが不安定であることはないことがわかります。

変数重要度

「変数重要度」タブをクリックすると、目的変数を予測する上でどの変数が重要なのかを確認することができます。

この結果から、製造時間の予測に最も重要な変数は生産効率であり、次いで作業シフト、作業経験者年数の順となっていることがわかります。

影響度

「影響度」タブでは、各予測変数が製造時間に与える影響の方向と強さを確認することができます。

例えば、生産効率の値が上がると、作業時間も減ることが確認出来ます。

例えば、作業シフトが夜間の場合は、他に比べて製造時間が長いことがわかります。一方で作業シフトが日中の場合は、製造時間が短い結果となっています。

係数

「係数」タブでは、各予測変数の係数とその統計的有意性を確認することができます。

この結果から、各変数の効果の大きさを数値で確認できます。また、P値が0.05未満の変数は、統計的に有意な影響を持っていると判断できます。

逆ガウス分布での係数は、逆リンク関数を使用しているため、解釈をする時には「増加」の場合はその逆である作業時間の減少に寄与し、「減少」の場合は作業時間の増加に寄与することとなります。

生産効率の係数が0.001018ですが、この場合は生産効率が上がることで、作業時間が減少することを意味します。

作業シフトが日中から夜間になった時の係数が-0.00008、この場合は作業時間が増えることを意味します。

サマリ

「サマリ」タブをクリックすると、モデル全体の予測精度を確認することができます。

逸脱度の減少率

モデルが説明変数を加えることで予測精度改善しているかを表す指標で、値が大きいほど、モデルの説明力が高いことを意味します。

逸脱度減少率=Nullモデルの逸脱度−残差逸脱度Nullモデルの逸脱度×100 = 100逸脱度減少率=Nullモデルの逸脱度Nullモデルの逸脱度−残差逸脱度×100

基準値:

  • 20%以上:とても良い
  • 10-20%:十分な改善
  • 5-10%:ある程度の改善
  • 5%未満:改善が小さい

今回の場合は以下のように計算ができ、96.8%の減少は、予測精度が大きく改善したことを示しています。

(0.0223855304669957 − 0.000717390790019119) / 0.0223855304669957×100 = 96.80%

4. まとめ

一般化線形モデル - GLM - 逆ガウス分布は、製造時間のような右に裾の長い分布を持つデータの分析に特に適した手法です。今回の分析では、製造時間に対する各種要因の影響を正確にモデル化し、生産効率や作業シフト、作業者経験年数が特に重要な要因であることが明らかになりました。この結果は、製造プロセスの改善や効率化のための具体的な施策立案に直接活用することができます。

参考資料

  • アナリティクス・ギャラリー - リンク
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