UK Economic Outlook by PwC- Link

PwC (Price Waterhouse & Cooper)というコンサルティングファームが UK Economic Outlookというイギリス経済の今後の動向に関してのレポートを先週出していました。AIがイギリスの経済に与える影響についての予測と考察に多くのページが割かれていましたが、一番のポイントとしては、2037年までに現在のイギリスの20%の仕事がAIによって自動化されるそうです。しかし、おもしろいのはそれと同じくらいの仕事が新しく作られるようです。具体的な数字にすると700万ほどの仕事がAIによる自動化によってなくなり、720万ほどの仕事が逆にAIによって新しく作られるようです。イギリスの総人口は約6500万人(2017年)、就業者人口(勤労所得または自営所得を有する者)は約3200万人です。ところで、こうした数字は彼らの作った統計の予測モデルではじき出されていますが、誤差などがあるのが前提ですので、この20万人の違いをあまり真剣に捉えるべきではないと思います。

AIによって新しい仕事が作られるという根拠は、以下のロジックから来ています。

イギリスの長期的な成長の46%がAIによるものとされています。イギリスの次の20年間、毎年のGDPの成長率は平均2%弱が見込まれているということなので、毎年の成長の0.9%がAIから来るということになるようです。

こちらが上記のレポートの中にあった、産業別にAIによって増える仕事(働く人)と消滅する仕事(働く人)の数、そしてその割合を一緒に表したチャートになります。

右側のチャートがAIによって増える仕事と消滅する仕事の割合が濃い赤と薄い赤のバーでそれぞれ示されています。折れ線がその増加と減少を差し引いた値を表していますが、その増加がもっとも大きいのが、22%増のヘルスケアと社会福祉、16%増のコンサルティング、ITなどのプロフェッショナル・サービス、6%増の教育などで、逆にその減少が最も大きいのが、25%減の製造業、22%減の物流(トランスポートと倉庫)、18%減の公共機関と軍です。

ところで、こういった将来を予測するレポートを見るときはもちろん注意が必要です。

”予測するのは大変難しいです、特にそれが将来のことならば。”

とは、もとニューヨーク・ヤンキースの野球選手、ヨギ・ベラの名文句です。特にこのAIによる自動化によってなくなる仕事を予測するというのは、そもそもそうしたことが実際に起きているという現在までの過去データがほとんどありません。AIによってなくなっていく仕事がこれから多くなっていくだろうというのは確かだと思いますが、それでもこうした予測ででてくる数字はそれぞれの産業や国どうしを比較したり、議論のきっかけに使うのはいいと思いますが、絶対的な数字としてとらえるべきではないと思います。

ちなみに、この手の予測、つまりAIで人間の仕事が奪われるといったセンセーショナルな予測はいろんなコンサルティングやリサーチ会社からでてきておりますが、実はその数字はまばらです。こちらにMITのTechnologyReviewがまとめたリストをもとにチャートを作ってみました。

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X軸は予測を出している会社、Y軸は消滅する仕事の数の見積もりの最小値、円の大きさが消滅する仕事の見積もりの最大値です。

Thomas Freyというファームが出している数字は世界で消滅する仕事が2ビリオン(20億)ということですが他と比べてもあまりに強気すぎるというのが見て取れます。マッキンゼーの場合は、2030年までに4億から8億ほどの仕事がAIによって消滅すると見積もっています。

どれも自分たちの予測モデルを使っての予測なので、それぞれの数字に大きな開きがあります。もう一つ話をややっこしくしているのは、それぞれが予測している対照の年が違うということです。ある数字は「2030年まで」にということであるし、ある数字は「2020年までに」といった感じです。もちろん、より遠い将来の数字のほうが大きくなるはずです。こちらがそれを表したチャードで、Y軸が今年2018年から何年後かというのを表し、円の大きさが消滅する仕事の数です。

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これでは、皆自分に都合のいい数字を選んで使ってしまいますよね。次に何かのプレゼンテーションやセミナーでこういう数字が出てきたときにはこういった話を思い出していただければと思います。(笑)