1946年から2015年12月にかけての国連の全加盟国による国連総会での全ての投票結果のデータがこちらのウェブサイトよりダウンロードできるのですが、そこにある幾つかに散らばってるデータのファイルをまとめ、分析しやすいようにきれいにまとめたデータが以下のようになります。
ここで、それぞれの国がどういった決議に対して、どのように投票していったのかを見ていってもいいのですが、実はそれよりももっと面白いインサイトをこういった投票結果から得ることができます。
例えば、以下のような2つのA、Bという国の投票結果があったとします。
そうするとこの2つの国はここにある決議に関しての全ての投票結果が同じなので、かなり’近い’とみなすことができます。
次に、AとCという国の投票結果が以下のようだっとします。
すると、この場合は全ての場合で投票結果が違うのでこの2つの国は’遠い’とみなすことができます。
最後に、AとDという2つの国の投票結果が以下のようだっとします。
この場合は、半分ほどの決議に関しては投票結果がいっしょですが、その他の半分ほどに関しては違います。ということは、この2つの国は前述のケースに比べて、近いとも遠いとも言えないといえることができます。
こうした判断を全ての国同士のペアに対して行いそれをもとに相対的な距離を計算することができます。つまり、どの国同士のペアが他の国のペアに対して近いのか、それとも遠いのかということを統計では有名なEuclideanというアルゴリズムを使って簡単に計算することができるんです。
詳しくは次回のHow-toポストで紹介しますが、その結果をヒートマップを使って表すと以下のようになります。
このチャートでは色が赤くなればなるほどそこに交わる国同士は近いということを表し、青くなればなるほど遠いということを表します。こうしてみると、アメリカやイスラエルは一般的に他の国とは遠いということがわかります。横に走っている濃い青色の2つ線が上からイスラエルとアメリカですが、これらは他のどの国との距離も遠いということを表しています。
このまま、興味深い国同士の近さ、遠さをひとつひとつ見ていってもいいのですが、これだけ国の数があるとさすがに骨が折れます。それよりも、全体としてどういったトレンドもしくはパターンがあるのかということをつかむことができれば、それはすぐに役立つインサイトとなるのではないでしょうか。実は、このそれぞれ2つの国同士の距離であるデータを集めてそれをもとにそれぞれの国を2次元の空間に表すことのできるMDS(Multi-Dimensional Scaling、多次元尺度法)というアルゴリズムが統計の世界にあります。
つまり、東京と京都の距離、東京と大阪の距離、京都と大阪の距離などと一つ一つのペアの間の距離を下記のように見ていくよりも、
それらの都市を地図上に落とし2つの次元(緯度、経度)を使うことで全体的にこれらの3つの都市の位置関係を見たほうが直感的に全体の関係がつかめます。
前述の統計のアルゴリズムを使って先ほどの距離のデータを2次元空間で表すように計算し直した結果が以下のようになります。
これを散布図で可視化すると以下のようになります。
わかりやすいように、安全保障理事会の常任理事国である5つの国と日本の点を少し大きくして、ラベルをつけています。
こうしてみると、先ほどヒートマップで見たときよりも、国同士の関係に何かトレンドのようなものが見えます。例えば、米国は他のすべての国から遠い位置にいたり、日本はヨーロッパ、オセアニアの国々と近い場所にいるのがわかります。ただ、これは1946年から2015年までのすべての年のデータに基づいていますが、実際は国際関係というのはこの70年の間に劇的に変化しました。特に冷戦時代にヨーロッパが東と西に分かれていた時代と今日ではかなり大きな変化があります。
ということで、もっと短い期間に区切ってそれぞれの時期での国同士の関係を見た方が、より意味のあるトレンドが発見できそうです。そこで今回は通常4年から8年である各米国大統領の任期という期間ごとに国同士の距離を計算して分析してみました。
たとえば、2009年1月20日から2015年12月23日までのオバマ政権時代のデータのみをフィルタリングし、距離を再計算した場合、以下のようになります。
元のデータには2015年までしか含まれていないので、これはオバマ政権時代の完全な描写ではないかもしれないことに注意してください。
米国には親しい友人が少なく、他のほとんどの国々から遠く離れていることがわかります。そして例外的に、比較的近い距離にあるミクロネシアのような太平洋島嶼国と一緒に、イスラエルと親しくしているのがわかります。
英国とフランスが集団から少し離れていることを除けば、ヨーロッパ諸国のすべてがお互いに非常に近いことも分かります。欧州諸国の中心はどこでしょうか?それはドイツです。そしておそらく、これが英国がEUから脱出したかった本当の理由なのかもしれません。そして、赤いヨーロッパ諸国の周りの青い円は、基本的に日本、韓国、トルコのような「欧米化された」アジア諸国であり、ヨーロッパ諸国とどれほど近いかを見ることができます。
しかし、最も印象的なことは、中国に多くの友人がいるだけでなく、その重力が、中南米、アジア、アフリカの非西欧諸国のほとんどを強く引き込んでいるということです。中国はこのクラスターの中心に位置しており、国際関係の中で一つのそして重要な極を作り出しています。
多極化といわれて久しいですが、それでもここまできれいに世界中の国々が、ヨーロッパ、中国、超孤独な米国という3つの極に分かれていると言うのは以外でした。米国が一部を除く殆どの国から離れているというのも以外ですし、ヨーロッパと米国が近くないというのも意外ですし、さらにはロシアでなく、中国の周りにたくさんの非西側諸国がこんなにも集まっているというのも意外です。
それでは、いつの時代からこのようになっていったのでしょうか?ブッシュ政権下で、フランスやドイツなどの国を含む国連を無視して、米国がイラクと戦争を起こしたため、ヨーロッパを含む他の国は米国から離れていったのでしょうか? 中国はいつもこんなに人気のある国だったのでしょうか?歴史的背景を考慮すると、ロシアのほうがもっとたくさんの、特に非西側諸国に囲まれていても良さそうですが、中国の方がそうであるのはいつからなのでしょうか?
これらの質問に答えるために、トルーマン政権からオバマ政権に至るまでの米国の各政権の任期の期間を見て、時代とともに国際関係がどのように変化してきたかを見てみましょう。
まずはトルーマン政権から始めます。
この時代ロシアはソ連であったこと、そして今の中国は1971年まで国連のメンバーではなかったことに留意してください。 これは国連の歴史の始まりであり、米国は実際に自分の周りに多くの友人を持つことができました。ここで見ることができるのは、図の右側に東ヨーロッパのクラスターがあり、図の左側に西ヨーロッパのクラスターがあり、そしてどちらのクラスターに属さない国が下の方にいるという点です。ちなみに、日本はまだ国連に復帰が認められていませんでした。まだ国連のメンバーは少ないので、次はアイゼンハワー政権の時代に移りましょう。
この時代、米国はラテンアメリカ(紫)に多くの友人がいるようです。ヨーロッパの国々(赤)は今日ほどお互いに近くありません。アフリカ諸国(オレンジ)、アジア諸国(青)、ラテンアメリカ諸国(紫)は、別々のクラスターを形成しています。日本はイスラエルに近い位置にあることがわかります。
ケネディ政権はわずか2年しか続かなかったので、次に政権を引き継いだジョンソン政権を含めて一緒の期間にしています。 この間、米国は依然として西欧諸国のすべてに近いようです。ラテンアメリカ、アフリカ、アジアの国々が互いに近づき、「非同盟」または「第三世界」としてのクラスターを形成し始め、西ヨーロッパと東ヨーロッパの国々はそれぞれ別のクラスターを形成しているのがわかります。図の右側では、西側諸国がお互いに近づいているのを見ることができます。図の左側では、共産主義諸国が互いに密接に接近しており、西側諸国よりもはるかに緊密であることがわかります。日本は真ん中からやや右の方で、中南米やヨーロッパのクラスタの間に位置しています。
次に、ニクソン政権時代を見てみましょう。
全体的に、以前の期間とのあまり明らかな違いはありませんが、注意すべき点がいくつかあります。 「第三世界」諸国はさらに親密になってきています。西欧諸国は、ドイツ、フランス、イギリス、ポルトガルのクラスターと、カナダ、イタリア、オランダ、ベルギーのクラスターに分かれています。そして、米国は他の西欧諸国から少し離れているように見えますが、まだそこまで離れていません。もう一点は、中国(中華人民共和国)は、1971年に国連に加わったので、共産主義のクラスターに比較的近いものの、他のクラスタの間の中間的な位置にあるということです。日本とオーストラリアの距離が前の政権の時よりも近くになっています。
この辺から米国は、他のどの国からも遠ざかり始めているのが見て取れます。それと同時に、イスラエルが米国に近づき始めているのもわかります。アフリカ、アジア、中南米諸国の「第三世界」諸国は、お互いにもっと近づいています。ここで興味深いのは、共産主義のクラスターは、前の時期とほぼ同じように見えるということです。この時代も日本はオーストラリアに近い位置にいます。
米国はいくつかの西ヨーロッパ諸国に少し近づいています。「第三世界」諸国がさらに親密になっていくトレンドは続きますが、中国が共産主義のクラスターに近づくのではなく、この「第三世界」諸国の極に吸い込まれるように近づいていっているのもわかります。
米国は自らを他の国々から引き離し続けました。ここで興味深いのは、とても孤独に見える国が他にもあるということです。その国は国際的に悪評の高かったアパルトヘイト政策のために自らを隔離していた南アフリカです。「第三世界」諸国はこの時代も一層親密になっていき、中国はこの極にさらに引き込まれていくトレンドが確認できます。日本に関しては、この当時、中曽根首相とレーガン大統領の「ロン・ヤス」関係という強いトップ同士の信頼関係がありましたが、米国との距離が特に縮まるということはなく、むしろイタリア等のヨーロッパの国との距離が近くなっています。
この時期に注目に値するのは、ソビエト連邦やその他の東欧諸国が崩壊し、共産主義のクラスターがなくなりました。そして、中国が「第三世界」クラスターのほぼ中心になっています。その間、米国は自らをさらに引き離し続け、イスラエルは他の西側諸国と行動を共にするのではなく、米国と行動を共にすることを決めたようです。日本は他のアジア諸国のクラスタからは遠く離れ、ヨーロッパ諸国のクラスタに近いところに位置しています。
これは今日の位置関係にかなり近いです。 3つの明確に区別できる極、第3世界、ヨーロッパ諸国、米国があります。米国とイスラエルは、他の国々から自分たちをさらに切り離そうと決心したようです。ロシアはヨーロッパクラスターと第3世界クラスターの間にいます。これは、西側にとって、最も親しみやすいロシア大統領だったエリツィンが1999年まで大統領の座にいて、ロシアと西側諸国との関係が今日からは想像もできないほど良好だったからでしょう。日本は再びオーストラリアに近づき、共にヨーロッパ諸国のクラスタの周辺に位置しています。
この期間では、2001年9月11日に米国がテロ攻撃を受け、米国はプーチン大統領のロシアを含む多くの国が支援したアフガニスタンを攻撃することに決めました。またさらにフランス、ドイツのような西側同盟国を含む多くの国々が反対するなか、米国がイラク侵攻にかじを切ったのもこの時期です。 アメリカとイスラエルの蜜月状態はこの時期も続き、太平洋諸島のいくつかの国を仲間に招き入れています。ロシアは中国が中心である第三世界のクラスターに吸い込まれていっています。第三世界とヨーロッパのクラスターの重力は非常に強く、その間に国はほとんどありません。日本は韓国と共に、ヨーロッパ諸国のクラスタの周りに位置しています。
この期間は、前の期間とほとんど同じですが、いくつか興味深いことが起こっています。アメリカとイスラエルはいくつかの太平洋諸島諸国と親しい友人として密接な関係にありますが、カナダとオーストラリアは以前の時代と比較して、このクラスターに近づいています。ここで興味深いのは、イギリスとフランスは、ドイツが中心にいるヨーロッパ諸国のクラスターとは少し離れていることです。最後に、第三世界のクラスターはもはやこの時期になると、第三世界というよりは中国のクラスターになっているようです。その重力は非常に強く、これらの国々はより緊密になっています。日本はこの時期もヨーロッパのクラスターの周辺に韓国と共にいます。
これまで見てきたように、米国は必ずしもいつも孤独ではありませんでした。特にアイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン時代には多くの友人たちがいました。米国は以前は自由と民主主義の世界のリーダーとして多くの国に慕われる存在でした。しかし、フォード政権のあたりから、米国は国際的にはまだリーダー、もしくは「世界の警察官」であったにもかかわらず、多くの国は西側諸国でさえ、国連での投票という行為を通して距離を置き始めました。そして、その傾向はその後も続き、さらに悪化していったのです。
ここでさらに重要なことは、米国が他の多くの国々から離れていくのに対して、同じ時期に中国は非西側世界の国々の中心になっていきます。つまりこうした国々の間では新しいリーダーが生まれ育っていったということです。
トランプの米国大統領選挙運動中から顕著になってきた、米国第一主義的な態度が、米国を他国から隔離しているといった指摘をよく聞きますが、実は、国連での投票結果という観点からは、はるか以前から米国はすでに世界から孤立しているのです。
アメリカがかつて偉大だったという主張について、トランプには一理あると言えるでしょう。あるいは少なくとも他の国々はそのように考え、国連で米国と一緒に歩んだのです。しかし、すべての国が、既に米国抜きで中国もしくはドイツの周りに集まっている現状を考えると、アメリカを再び偉大にするために自分の利益だけを主張するというのは、あまり説得力がないといえます。
中国のような国が、特に第2次世界大戦後の西側の世界では当たり前になった自由、人権、民主主義といったものに挑戦してきた時に私たちはどう対応するのでしょうか?そんなときに米国は一人で戦うつもりなのでしょうか?本当にアメリカの利益、特に経済、ビジネス上の利益を主張するだけで十分なのでしょうか?実は最優先させるべきなのは、国の始まり以来、米国が戦い守り通してきた自由、人権、民主主義ではないのでしょうか。今こそ、米国には国の原点に戻って、完璧ではなくともより良い世界を作りづつけていくというあの精神を取り戻してほしいものです。
最後に、私は政治学や国際関係の専門家ではありませんが、これらの科目について学ぶのが大好きです。これまで述べてきた項目で、いくつかの重要な点や文脈を見逃していることもあるでしょうし、また私の所見のいくつかは正確さに欠ける点があると思われます。しかし、私にとって、最も興味深いのは、国連総会の投票記録に基づいて、各国の関係をすばやく「見える化」できたことであり、そこで得られたインサイトが、専門家により、特に地政学の専門家による考察から大きく外れたものではないという点です。これは、データ、統計、可視化を合わせることのパワーを示しています。
次のポストで、私がどのようにデータを準備し、段階的に分析したかについてお話します。
データソース: Voeten, Erik; Strezhnev, Anton; Bailey, Michael, 2009, “United Nations General Assembly Voting Data” — リンク
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