気づき力 - 意思決定の精度を上げるための3つの提言

Max Bazermanによる「The Power of Noticing: What the Best Leaders See」という本があります。この本自体は数年前に出たものですが、そちらの本のレビューとして「意思決定に役立つ3つの「気づき」パワー」といった内容の記事を最近目にしました。

よりよい意思決定を行うためのデータ分析という観点からも、非常に参考になる提言だと思います。

ちなみに、この本の日本語訳も出ているようです。タイトルがちょっといけてないですが。。。

  • ハーバード流「気づく」技術 - Link

以下、要約。


3 ways to make better decisions using the power of noticing - Link

1. より多くの情報をいつも求める

いつも完全ではない情報をもとに仕事をしているということを認識しましょう。

NASAのスペースシャトル、チャレンジャーが発射後、空中で爆発したことがありましたが、それは防ぐことのできた事故でした。

あるエンジニアはO-ringsが気温が低いときに故障するという相関に気づいていて、打ち上げ当日の温度は低かったため打ち上げを踏み留めるべきだと提言したのですが、無視されました。というのも、それまでO-ringsは気温が冷たいときにいつも故障していたわけではなかったからです。

しかし、その時NASAがほんとうにするべきだったのは、より多くの情報を求めることでした。そうした仮説、つまり気温が低いときにO-ringsは故障しやすいという関係を検証するために必要なデータを求めるべきだったのです。

後になってデータをよく見てみると、明らかなパターンがあることがわかりました。たしかに、O-ringsは気温が冷たいときにいつも故障してたわけではなかったのですが、故障したときはいつも気温が冷たかったのです。

「全てのデータを見てみると温度とO-ringの間には明らかな関係がありました。そしてその関係性からチャレンジャーの打ち上げが99%の確率で失敗すると予測できたのです。しかし、エンジニアもマネージャーも手元にあるデータのみで結論を導いてしまっていたのです。温度とO-ringの間にある関係に関する仮説を検証するためにどういうデータが必要になるのかと質問するものはいなかったのです。」

2. 吠えなかった犬に疑問を持つ

これは、起きていないことに気づくということです。

”Silver Blaze”というシャーロック・ホームズの探偵物語の中で、夜に訪問客があったにもかかわらず犬が吠えなかったということから、殺人事件の謎を解き明かしていくものがあります。

ある状況の中で、起きなかったことに気づくというのは、探偵の仕事だけでなく、ビジネスや交渉の場でも重要なスキルなのです。

私達が意思決定を行う時、私達はすでに知っている情報をもとに、もっともありそうなストーリーを作り上げてしまう習性があります。しかし私達は、明らかでない情報、つまり、「吠えなかった犬」といったことにもっと注意を向けるべきなのです。

3. 意思決定に関する日記をつける

過去にあなたやあなたの組織を襲った危機を思い出してみて下さい。何が起きたのでしょうか。それは誰が責任を持っていたのでしょうか。結果として何が起きたのでしょうか。

あなたが友達と話していたとして、こうした全ての質問に答え終わったとき、その友達は、「そもそも、なぜそうした危機がやってくるとだれにも予測できなかったのか?」と反応するでしょう。

ここで質問です。

あなたの返答は次のうちの一つでしょうか?

  • そんな事が起きるとは誰にも予測できなかった。
  • それが起きる可能性は低かったのでだれも真剣に考慮することをしなかった。

それとも、次のようなものでしょうか?

  • 私達にどんな脅威が差し迫っているか調べることを怠った。
  • 他の人達にどんなデータが足りてないのかと問いかけることをしなかった。

この2つのタイプの答え方の違いに気づいたでしょうか。

1番目のタイプの答えは外部帰属性で、2番目は内部帰属性です。

心理学の分野での研究において、50年ほどの日時を経た今でもまだ確証されているものの中に、「自分たちの成功は自分たちの力のおかげであるとし、失敗は自分ではなく他の人や他の状況のせいにする」というのがあります。

失敗が起きた時、「気づき」の上手い人は、何をしたのかに注意を向け、さらに重要なことは、これから先、どうやり方を変えることができるのかを考えます。こうして同じ間違いを繰り返さないようにするのです。

自己の改善に集中することで過去の経験から学ぶことができ、一流の「気付ける人間」になるために必要な習性を身につけることができるようになります。

こうした改善がうまくなるためには、意思決定に関する日記をつけることです。そこではあなたの意思決定に行き着いた理由、その意思決定を行った時どれだけ自信があったのか、その結果はどうだったのか、といったことを書き込みます。

これによりあとで、間違いがどのように起きたのかを認識できるだけでなく、実は自分がどれだけ運が良かったのかと気づくことにもなります。

後で振り返ったときにわれわれが持つバイアス(偏り)のせいで、以前に行った意思決定を正しく公平に評価するのは難しいものです。そこで、意思決定に関する日記をつけることで、そうしたバイアスを取り除くことができるのです。これこそが日記をつける最も重要な点です。


以上、要訳終わり。

あとがき

最後の、日記をつけるというのは意思決定の精度を高めていくのに役立つのでぜひみなさんも行っていただければと思います。

ふだんのデータをもとにビジネスを行っていく時も実はこれがあてはまります。

人間にはどうしても、後出しジャンケンをしたがる習性があります。

つまり、例えばコンバーション率を上げることが今月のゴールであったにもかかわらず、一ヶ月経ったあとコンバーション率が期待したほど上がっていなかったとします。

そうすると、多くの人はデータから別の「いいニュース」を拾ってきてその成果を大げさに発表したりするものです。

例えば、ユーザーのサインアップが増えているとか、ある特定の国でのユーザー数が伸びているなどといった具合です。

そうして、もともとの問題やゴールがあいまいになり、それによって、一ヶ月前に行った意思決定、または施策に対する評価までいい加減になってしまいます。

こうしたことを防ぐために、最初の段階でゴールなり問題なりをしっかりと数字の形で定義しておき、それを指標としてダッシュボードなどでチームの全員と共有しておくことが重要です。

さらにこの指標が多くなるとどれが重要なのかわけわからなくなってくるので、1つとか2つくらいまでに減らしてモニターすることが重要になります。

こうして、しっかりと意思決定を行う、もしくは施策を打つ、そしてその後にその成果を評価する、うまくいかなかったこと(もしくはうまくいったこと)をしっかりと理解する努力をする、そして改善につなげるということを行っていく仕組みをもつことで、データをほんとうの意味でビジネスの改善に役立たせることができるようになります。

ちなみに、データがとれないのであれば、本文にあったようにしっかりと意思決定に関するノートだけはとっておくべきですね。


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