先週、”Models Will Run the World(モデルがこれからの世界をまわしていく)”という、データドリブンではなくモデルドリブンなビジネスがこれからのビジネスだという記事がウォール・ストリート・ジャーナルにでていました。

モデルドリブン・ビジネスというのはたしかに言葉遊びとしては、おもしろいのですが、それ以上に、先ほども出てきたデータ・ネットワーク効果をうまく説明していると思ったのでその点から一部を抜粋して紹介します。

以下、抜粋の要訳


Models Will Run the World - Link

モデルドリブン・ビジネス

Marc Andreessenの“Why Software is Eating the World”という記事がこのウォール・ストリート・ジャーナルで発表されたのは、2011年の8月20日です。

ソフトウェアが世界を飲み込むのであれば、その仕組みを作るのはモデルです。

モデルとはアルゴリズムがデータからロジック(論理)を導き出す意思決定のフレームワークです。開発者がプログラムとして明示的に定義したり、人間の勘によって暗示的に導かれたりするのとは違います。アウトプットは予測で、それをもとに意思決定を行います。一度作られると、モデルはその成功や失敗から学ぶことができます。そのスピードと洗練度は人間がかなうものではありません。

モデルドリブン・ビジネスは収入やコストの最適化などビジネスのプロセスに関わる重要な決定のためにモデルを使います。このシステムを作るにはデータを収集し、データからモデルを構築するためのソフトウェアを使った仕組みが必要になります。

モデルドリブン・ビジネスはデータドリブン・ビジネス以上のものです。データドリブン・ビジネスはデータを収集し、分析することで人間がより良いビジネスの意思決定を行うというものです。モデルドリブン・ビジネスとはビジネスを絶えず継続的に改善するためのモデルのまわりにシステムを作っていきます。データドリブン・ビジネスではデータがビジネスをサポートしますが、モデルドリブン・ビジネスではモデルがビジネスなのです。

モデルドリブン・ビジネスの例 - テンセント、Netflix、Amazon

WeChatのメーカーでもある中国のメディアの巨人であるテンセントはこの新しいビジネスモデルのいい例です。

「私達は、ソーシャル・メディア、支払い、ゲーム、メッセージング、メディア、音楽などに渡る顧客に関するデータをもっていて、その規模は何億人分ものでーたになります。これほどのデータをもっているのは他にないでしょう。私達の連略はこのデータを何千人ものデータサイエンティストの手に渡して、広告の最適化をどんどんと行っていくことです。」

とは、ある幹部のコメントです。このユニークなデータがモデル工場の動力となり、ユーザーエクスペリエンスと収益を絶えず改善し、そのことがさらに多くのユーザーを誘い込むことになり、それによってモデルの性能が向上し、収益が向上するのです。これがモデルドリブン・ビジネスです。

Netflixはソフトウェアを使ってブロックバスターを打ち負かしました。そして、現在はケーブルテレビ会社や映画やTV番組といったコンテンツを提供する会社にモデルを使って勝ちつつあります。彼らのレコメンデーション・モデルは有名で、一年で収入にして1000億円ほどの価値があり、ユーザーが見るコンテンツの80パーセントを支えていると言われています。

ユーザーがそのレコメンデーションを受け入れたか、もしくは受け入れなかったという結果はモデルにフィードバックされるので、アルゴリズムの性能はさらによくなります。現在はHulu、Apple、Disneyに対する勝負が激しくなってきていますが、だれが勝つのでしょうか。最高のモデルを作ってビジネスにうまく組み込むことができたものが勝者になるでしょう。顧客を理解するために最高のデータを集め、最高のデータサイエンティストを雇うことができて、最高の予測モデルを作ることができるのは誰なのかということです。

Amazonはソフトウェアを使ってBorders(本)、Toys“R”Us(玩具)の実店舗ベースの企業を打ち負かしました。しかし、彼らの持っているモデルこそがOverstock.comなど、ほかのEコマースの企業を引き離している原動力なのです。2013年の時点ではすでに、35%の収入がAmazonのプロダクト・レコメンデーションから来ていると言われていました。そうしたモデルの改善は止まることがありません。注目度の高いPrime Air Dronesのようなイニシアチブから製品の配送、不正検出、翻訳といったあまり目立たないものを含め、そうした機械学習のモデルが活躍する場は様々です。最近の、Whole Foods や PillPackの買収はAmazonのモデルの力を新しい業種でさらに発展させていくことになるでしょう。

モデルドリブン・ビジネスの条件

モデルドリブン・ビジネスについて、いくつかのキーとなるポイントがあります。

まず最初に、データの量やデータを作ることができるということではなく、データをいかに使いこなせているか(Completeness)こそに価値があります。

テンセントやAmazonのような企業が成功しているのは彼らが様々なデータを持っているからではありません。もちろん彼らには、顧客がだれなのか、サイトに来る前にどこに行ったのか、何を見てきたのか、どこへ行ったのかなどの情報を持っているのは確かですが、それ以上に重要なのは、ループがしっかりと閉じられていることです。(closed loop) 

モデルが何かをレコメンドするたびに、例えば買ったり買わなかったりといったユーザーの反応を捉え、その新しいを使ってモデルの性能を向上できているかどうかが重要なのです。

クローズド・ループのデータがあると、企業はインプットとアウトプットを知っています。つまり、予測とその結果です。対照的に、データのループがしっかりと閉じられていないビジネスは人間の直感に頼って、仮説を構築し、結果の解釈をしなくてはいけないので、進化のスピードとスケールが限られてしまいます。

次に重要な点として、バーチュアス・サイクルを作ることが最終的な目的です。テンセントやAmazon、Netflixの様な企業はこうした仕組みを上手く作っています。モデルがプロダクトを改善し、そのことによってプロダクトがますます多く使われるようになり、そのことでもっとデータが集まり、そのことによってさらにプロダクトが改善していくというサイクルです。

これはほとんど手間もなく、継続的に改善していくプロセスを作り上げることができるということを意味します。人間の判断や進化に頼ることなく、勝手に燃料をどんどんと注ぎこんでいくことができるわけですから。このことは多くの企業の重役にとっては恐ろしい現実です。Amazonのジェフ・ベゾスが株主に当てた手紙の中で言っていることですが、多くのモデルによる改善はより効率的なオペレーションやよりよい意思決定といったものの裏側で起こっているので、外からは見えにくいものなのです。

さらに、別の重要な点として、実はこういった競争では、既存企業にとってはソフトウェアの時代の競争において比較的有意になる可能性があります。なぜなら、彼らには始めたばかりのスタートアップには手が届かないほどのデータがすでに大量にあるからです。既存企業は自分たちがこれまでに集めたデータを使ってモデルを作ることができますし、それを他の人達に売ることもできます。スタートアップの場合はそういったデータを上手くとってくる仕組みを考えるか、既存企業が集めたデータを取得するために企業ごと買収する必要があります。

ソフトウェアはこれからも世界を食べ続けることでしょう。しかし、機能の優位は今日では誰もが行うアタリマエのことです。競争優位を求めて、ソフトウェアが当たり前になった世界ではモデルドリブン・ビジネスが群れを引き離していくでしょう。Andreessenが予測したように、ソフトウェアの世界はこれまでの7年の間お金を儲けるには最高の場所でした。これからの7年はモデルドリブン・ビジネスが大きなチャンスになると私達は予測しています。


以上、要訳終わり。

既存企業の方がデータがあるからスタートアップに比べて優位という点は、たしかにそうであるケースもあるかとは思うのですが、以下のポストでも紹介しましたが、テスラと既存の自動車会社の例などを見るとそんなに単純でないと思います。

例えば、テスラの場合は直販ですから自分たちの必要な顧客データを直接集めてくることができます。それに対して多くの自動車会社は、顧客に直接車を売っているわけではなく、代理店に売っておしまいというケースが多いと思います。その場合はそもそも必要なデータが実は取れない、もしくは取れていないということになります。

さらに、テスラの場合は、もちろんカメラやセンサーもそうですが、そうしたものをソフトウェアを使って管理することでデータを積極的に走っている車から撮ってくることができます。既存の自動車会社はここに関しても弱いです。

さらに現在のように顧客の嗜好がものすごいスピードで絶えず変化する時代には、過去10年のデータがあるだけよりも、今から目的を持ってデータを取り始めることができる方が強いということもあるでしょう。

この5年ほどの間にビッグデータ、データレーク、DMP、IoTなどの言葉が流行り、とにかくデータを集めればそれが後でビジネスに役立つだろうという甘い期待を持っていた企業は多いと思います。

しかし、これからは何がビジネスにとって重要な目的であるのか、そしてその目的のためにどういうデータが必要なのか、どうすればそれは効率的に収集することができるのかを試行錯誤していくべきでしょう。

前述のテスラの例でもそうですが、これからのビジネスはいかにサービスやプロダクトの改善を継続的にアルゴリズムとデータを使って行っていくことができるか、つまりどのようにデータ・ネットワーク効果をビジネスの成長戦略に組み込むかが重要になってくるでしょう。