こんにちは、Exploratoryの西田です。

普段から、データ分析に関するプロジェクトでは、実際に分析を行うアナリストの人達、そうした分析結果をもとに意志決定を行うビジネス側の人達の両方から不満の声を聞くことがあります。

アナリストからよく聞くのがビジネスの方と話がかみあわない、またはデータ分析から得た興味深いインサイトをレポートしても、ビジネスの意志決定は何も変わらないといったものがあります。

こうしたギャップはどこの組織でもあるので、ほうっておいたらその溝は埋まりません。こうしたときには双方の歩み寄りが必要なのですが、私は個人的には現状ではビジネスの方がもっとデータ、アナリティクスに対する理解を持つべきだと思っています。

しかし、アナリストにも歩み寄れことがあります。今回は、シリコンバレーにあるユニコーン・スタートアップの一つ、Intercomでプロダクト・アナリストをやっているFlora Devlinからこの点に関しての役に立つ簡単なアドバイスが「Sharing the power of data through partnership and storytelling」というブログポストとしてまとめられていたので、みなさんとここで共有したいと思います。ちなみに、私のやっているExploratoryでも、ユーザーとのコミュニケーションにこのIntercomを利用しています。Exploratoryのホームページの右下に出てくるチャットの機能がそうです。

以下、要訳。


Intercomでのプロダクト開発のプロセス

私の知っている限りほとんどの企業では、プロダクト開発に関わるアナリストは、プロダクトをベータリリースもしくは正式にリリースした後のプロダクトやビジネスのパフォーマンスを評価することにフォーカスしています。しかし、プロダクト開発に関する意志決定というのはそういったリリースが行われるはるか前から行われています。

プロダクト開発では、たくさんの意志決定が継続的に絶え間なく行われるものです。その時その時は小さな意志決定に見えても、その意志決定はそのプロダクトが違った道を通っていくことになり、それはつまり違ったプロダクトになるということを意味するのです。

私は、データの力は2つの点に集約されると思います。

一つ目は、私達が何を知っていて、何を知らないのかということをはっきりさせるということです。より良い意志決定を行うにはチームのみんなが同じ情報を持っている必要があります。

もう一つは、クリエイティビティを刺激するということです。同じプロジェクト、同じ課題に対して長い間集中して働いていると、新しい視点から物事を見るのが難しくなります。そこでデータが新しい情報を持ってきてくれることになります。それまでとは違った視点から物事を見ることが可能になります。それまで分かっていたと思いこんでいたことが、実はそうでなかったと教えてくれます。

開発のプロセスを通してデータを使ってものを作っていくというのは、ある日突然、「これから全ての意志決定にデータを使わなければいけない!」といったアナウンスメントをしたらいいというものではありません。

アナリストとして、意志決定がどこでどのように行われているかをまずは理解する必要があります。さらに、分析から得られたインサイトをチームのみんなと共有するための最善の方法を理解しておく必要があります。

パートナーシップの構築

私が参加することになったチームがそれまでどのように仕事をしてきたのか私は知りませんでしたし、チームの方も私がそれまでどのように仕事をしてきたのか知りませんでした。チームと効果的に情報を共有していくにはチームと強いパートナーシップを作っていく必要があります。これには時間がかかります。

Intercomでうまく言ったやり方の一つは、一定の期間アナリストは関係するプロダクトのチームの一員として組み込まれるというものです。チームの毎週のミーティングに出席し、プロダクトのデザインレビューに参加し、プロダクトのリリースに向けた準備のためにチームと一緒に机を共有するといった具合です。

デザインレビューに参加するのは私にとって非常に役立ちました。というのもどうやってチームが意志決定を行うのかに関してよりよく理解することが出来たからです。もし私が役に立つデータに基づくインサイトを持っている場合は、その場で提供することができます。Slackのチャネルに参加していることも役に立ちます。チームのダイナミクスが理解でき、データを共有するに当たってもっとも効果的な方法を理解することができるのです。これによってチーム全体がより速いスピードで前に進んでいくことができます。

ストーリーテリング

ストーリーテリングとは共有するデータに関するよく考えられた物語のようなもの(ナレーション)を作ることです。どんなに優れたデータ分析でも結局は伝えることができるストーリー以上の価値はないということです。インサイトが理解しにくく、説得力がなければ、誰も次に何をしたらいいかわからず、結局はあなたの仕事のインパクトはほとんどないということになってしまいます。

私がこれまでに行ってきた中でも最もインパクトのあったいくつかの仕事はとっても簡単な分析をもとにしたもので、ストーリーテリングや可視化が大きく貢献しました。逆に複雑で興味深い分析でも、しっかりと考慮されたストーリーを作り上げるために時間をかけなかったものはそのまま誰にも使われませんでした。

実際のプロジェクトの例

最近の話ですが、どのように私達のカスタマーがインボックスという機能を使って仕事をしているか理解するためのデータ分析を行いました。さらなる自動化と最適化のための機能を作るためのプロジェクトのデザインフェーズの最中で、私達はユーザーがどのようにIntercomのインボックスという機能をどう使っているかに対する強い仮説を持っていました。それは、どのチームも、みんな一つの同じワークフローの中でインボックス使っているというものでした。

しかし私の分析は、そうではなく、むしろユーザーはインボックスという機能を複数のワークフローの中で使っていることを示していました。私はこの発見をチームと共有したかったので、整理することなしに数字をそのまま放り込み、内容盛りだくさんのレポートを作って送ることにしました。しかしそのレポートは誰にも読まれることはなく、ただそこに座っているだけという状態でした。Google Driveで共有していたので、誰もそのレポートを開いていないことは一目瞭然でした。そこには明確なストーリーがなかったのです。この数字たちは何を意味するのか、チームは次のステップとして何を行うべきなのかに対する情報が抜けていたのです。

私が発見したインサイトをわかりやすい形でみんなと共有することができなかったばっかりに、このままでは間違った前提知識を元にプロジェクトが開始されてしまうリスクがありました。

そこで、もう一度一から考え直して、データを使って伝えたいストーリーを練り直しました。できたものはシンプルなダイアグラムの図ですが、複数のワークフローがあるという点を明確に示したものでした。これはうまくいき、チームはこの図をプリントアウトし、部屋の壁に貼り付けることになりました。前回と同じ分析の結果だったのですが、伝えるためのストーリーが明暗を分けたといういい例です。

最後に

プロダクトの開発には絶え間ない継続的な意志決定が欠かせません。データはそういった意志決定に関わるどんな領域でも役に立ちます。そしてそれはプロダクトを作ってしまった後に役に立つだけでなく、これから開発を始めるという時、開発している最中でも役に立つのです。

私の個人的な経験から、プロダクト開発にインパクトを与えるためのデータ分析に最も重要なことは2つあります。一つは開発に関わるチームと強いパートナーシップの関係を構築すること。もう一つはデータを元にした説得力のあるストーリーを構築することです。


以上、要訳終わり。

どうでしたでしょうか。私の方から、2点ほど付け加えたいと思います。

1. 意志決定のプロセスの理解

データ分析を行う人に求められるものとして、業務を理解する、高いコミュニケーション能力というのがありますが、本文でも言われていたように、単に業務を理解するだけではなく、ビジネスの意志決定がどのように行われているか、どこで行われているか。さらに本文では触れられていませんでしたが誰が行っているかということを理解することは本当に重要だと思います。

データ分析をするそもそもの理由はよりよい意志決定であるわけですから、これは当たり前といえば当たり前ですが、組織が大きくなると特にこの意志決定のプロセスというのがなかなかわかりにくかったりするものです。表向きはある人がマネージャーだからその人が意志決定をすると思っていたらそうではなくチームの中、もしくは外にいる人が特定の問題に対しては意志決定をすでにしていて、それをマネージャーは事後承認するといったことはよくあります。そうであれば、どんなにそのマネージャーに対してわかりやすいようにデータ分析の結果を説明しても、実際に意志決定をしている人が理解できていないのであれば、効果的とは言えません。

ある意味、意志決定のインフルエンサーとも言うべき人がいるのであればそういったことも理解しておくべきで、そのためには、普段から様々なミーティングに参加したり、一緒に仕事をすることで、こうした微妙なニュアンスを理解するように努める必要があると思います。

2. データ分析とリーダーシップ

「私が発見したインサイトをわかりやすい形でみんなと共有することができなかったばっかりに、このままでは間違った前提知識を持とにプロジェクトが開始されてしまうリスクが有りました。」

とは、本文の中でFlora Devlinが言っていたことですが、こういった考え方ができるのは素晴らしいですね。英語ではアカウンタビリティ(説明責任)とかオーナーシップ(所有)とかと言いますが、つまり自分に求められたことをベストを尽くしてやって終わりではなく、期待された結果が出なかった場合はその責任は他人ではなくて自分にあると自覚することで、それでは、なぜうまくいかなかったのか、どういう問題があったのか、何が自分に解決できる問題なのか、もしくは何を改善することができるかを考え、実行に移していくということです。これは問題解決能力であることは確かなのですが、何が問題なのかを定義すること、さらにそれを解決するために行動し、その結果に責任を持つという点で、リーダーシップのスキルでもあります。

データ分析、データサイエンスでは技術や手法といったハード面のスキルについついフォーカスしてしまい、こうしたリーダーシップ、チームワーク、コミュニケーションといったソフト面のスキルを磨くのはついつい後回しとなってしまいますが、成功するデータ分析には重要なスキルだと思います。


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