米中AI半導体戦争 - 2022年

毎年恒例のAI業界のトレンドに関するレポートである「State of AI Report」の2022年最新版が最近出ていました。AIに関する最新のトレンドが「研究」、「業界」、規制や経済や地政学などを含む「政治」、「安全」、そして「予測」、といったそれぞれのテーマごとにまとめられています。

この中で私にとって一番興味深いと思ったのはアメリカと中国のAIに関する競争です。AIは軍事技術でもあるわけですから、まさにこの2つの大国にとっては生死をかけた「戦争」とも言える争いでもあるわけです。

そこで、この視点からこのレポートを簡単に以下にまとめてみたいと思います。

アメリカに匹敵する数の中国のAI論文

まずは、AI研究に関してです。

2022年はアメリカから出てきたAI関連の論文のほうが中国に比べて多いのですが(左側のバーの高さ)、前年と比べた成長率という点では中国が24%増、アメリカが11%増、と中国のほうが成長が速いようです。

組織で比べるとAI論文を発表した数が最も多いのは中国の清華大学で、その後にMicrosoft、Googleといった企業が続きます。(右側のチャート)

これは世界中の機関、組織ということですが、上位はほぼ中国とアメリカの企業や大学に占められているというのが現状で、これから先もしばらく変わることはなさそうです。

ちなみに、中国語で書かれた論文を含めると、中国のAI論文はアメリカに比べて圧倒的に多いとのことです。

諜報、軍事技術としてのAI

テクノロジーの発展の歴史の箱を開けてみると、そこにはいつも政府、特に軍事という大きな需要と予算の存在があります。アメリカのシリコンバレーの元となる半導体にしても、その後のインターネットにしてもアメリカの防衛省、CIA、軍需産業による研究開発の大きな予算や需要が背後にありました。

そしてこれはAIも同じです。

中国でAIの成長が著しい大きな理由は中国政府がAIを必要とし、トップダウンで「需要」を作っているからです。

顔認識を含むコンピュータービジョンに関するAI技術で世界のトップを走るのは中国企業ですが、それは国民を監視したい中国政府という大きなバイヤーがいるからです。

左下のチャートはAIの対象となるデータとしてアメリカと中国でどちらが多いか(赤は中国、青はアメリカ)を示したものですが、イメージやビデオが中国の方が圧倒的に多いのがわかります。

さらに、右側は機械学習(AI)に行わせるタスクがどちらの国でより多いかを示すものですが、中国の場合は「監視」に関するものが多く、トラッキング、オブジェクト認識、自動化、状況の理解、などといったものが特に多いのがわかります。逆にアメリカの場合は質問に対しての答え(Siriのようなもの)、テキストの分類といったものが多いようです。

AI頭脳であるGPUを含む半導体

ところで、最近のAIには頭脳であるGPUが欠かせませんが、世界のGPUマーケットのトップを行くのがNVIDIAです。

それだけに、今年の夏以降アメリカは中国とのAI競争に本腰を入れ始めます。

まずは「US CHIPS and Science Act」という法案です。

これは53ビリオンドル(約7.5兆円)にも上る予算を割り当てたアメリカ政府の半導体業界に対する投資となります。これとは別に半導体企業が行う投資に対して25%の税金を免除するというのも含まれています。もちろんこうした恩恵を受けるためには、企業は向こう10年間、中国での生産を拡大またはアップグレードをしてはいけないということになっています。さらに受けた融資を自社株買いや配当金に割り当ててはいけないということなので、アメリカ国内での生産への投資を促すようになっています。

これによって、韓国のサムソンや台湾のTSMCといった半導体企業は難しいかじとりを迫られます。というのもアメリカからのこうした投資を受けたいのは山々であるが、しかしそれによって中国での展開を縮小することになると、中国政府は黙ってはいないでしょう。

すでにアメリカの半導体企業マイクロンは40ビリオンドルの投資をし、クアルコムは4.2ビリオンドルをかけてニューヨークの工場を拡大し、生産能力を50%増しにする、との発表をしています。

アメリカのThe Center for Security and Emerging Technology (CSET) という機関が中国の軍や軍需産業による商取引を調べたところ、彼らが使用する全てのAIの半導体はNVIDIA、AMD、インテル、マイクロセミ、といったアメリカの半導体企業がデザインするもので、中国産のものは全く無かったとのことです。これは言い換えると、アメリカが中国軍の軍備増強の支援をしているということです。

NVIDIAの半導体はもちろん軍だけでなく、バイドゥ、テンセント、清華大学、といった民間企業、大学などでも使われています。そこで、アメリカはNVIDIAとAMDに最新のAI半導体の輸出を禁じ、これまでの全ての取引企業と取引内容を報告するように義務付けています。

さらに以前Newsletterでもお知らせしましたが(リンク)、この夏からアメリカ国籍、グリーンカードを持つ人は中国の半導体企業で働けなくなりました。(ツイート

現在中国にはアメリカの半導体企業に対抗できる半導体のデザイン力、さらに台湾や韓国の企業に対抗できる生産能力がありません。これから中国国内の企業がそのギャップを埋めるために努力することになると思います。日本が一昔前に行ったように、「追いつき、追い越す」ことができるのでしょうか。それとも、アメリカや日本や韓国、台湾の企業を中国に持ちこみ大量生産を効率的に行うだけではなく、そこから新しい技術を独自に作っていくことができるレベルになるのでしょうか。ここからが見ものだと思います。


データサイエンス・ブートキャンプ・トレーニング

データサイエンス、統計の手法、データ分析を1から体系的に学ぶことで、ビジネスの現場で使える実践的なスキルを身につけたいという方は、ぜひこの機会に参加をご検討ください!

ビジネスのデータ分析だけでなく、日常生活やキャリア構築にも役立つデータリテラシー、そして「よりよい意思決定」をしていくために必要になるデータをもとにした科学的思考もいっしょに身につけていただけるトレーニングとなっています。

詳細を見る

Export Chart Image
Output Format
PNG SVG
Background
Set background transparent
Size
Width (Pixel)
Height (Pixel)
Pixel Ratio