ヨーロッパにガスを輸出したいアメリカは手段を選ばない

ウクライナ戦争、なぜ起きたのでしょうか?メディアが主張するようにほんとうにロシアが一方的に悪いのでしょうか?さらに、その過程で起きたノードストリームの爆破はなぜ起きたのでしょうか?メディアが主張するようにロシアの自作自演なのでしょうか?

シェール革命によって天然ガス大国になったアメリカの立場になって考えれば、こうした疑問に答えるためのヒントが見えてきます。

天然ガス大国アメリカ

まず、天然ガスの産出量トップというと一般的にはロシア、サウジアラビア、カタールなどが頭に浮かぶのではないでしょうか。

実はアメリカがガス産出量トップというのはあまり知られていません。以下は2020年の天然ガス産出量上位国です。

これは主にシェール革命と呼ばれるものによって、アメリカでは大量の石油、ガスが採掘できるようになったおかげです。

そして大量のガスを生産できることになったアメリカはこの20年ほどの間に一気に輸出量を増やしてきました。輸出が赤、輸入が青です。

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カナダ、メキシコへパイプラインで輸出

アメリカのガスを輸出するため、アメリカはまずパイプラインでガスを送ることができる陸続きのカナダと、メキシコにターゲットを決めます。これがアメリカ産天然ガス輸出キャンペーンの第一弾です。(キャンペーンには3つの段階があります。)

まずはパイプラインによるもので、それは北のカナダ、南のメキシコに輸出されるものです。これは2000年以降急激に増加していきます。

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日本、韓国へ液化ガスをタンカーで輸出

アメリカのガス産業にとってはここからがチャレンジです。というのも海を隔てて遠い国に天然ガスを輸出するためにはガスを液化し、タンカーで運ばなくてはいけません。これはロシアや中東からすでにガスを輸入している国に売るには価格的に不利です。

そんな中トランプが大統領になる2017年以降、日本、韓国、中国などは大きくアメリカ産天然ガスの輸入を増やしました。さらにインドや一部のヨーロッパの国などでも増えました。

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ヨーロッパに輸出したいが、ロシアが邪魔

しかし、日本、韓国、中国への輸出に比べヨーロッパへの輸出はイマイチです。ヨーロッパトップの経済力を誇るドイツに至ってはこの時点ではゼロです。

なぜ、ヨーロッパには売れないのか。

ヨーロッパにはノルウェー沖で生産されるガス、中東からのガス、そしてさらにロシアからウクライナ経由のパイプラインで安価なガスがやってきます。

こうしたガスは運送費などのコストという点で、アメリカのガスは不利です。大量のガスが生産できるが、ヨーロッパという大きな市場に売れない。これはアメリカのガス産業界にとって大きな問題です。

そこで2020年時点でのガスの輸出量を見たところロシアがダントツ1位です。他はアメリカの同盟諸国(または覇権下にある国)です。

そしてロシアのガスの輸出先は以下のとおりです。

ウクライナ戦争勃発

なんとかしてロシアからヨーロッパへの安価なガスの輸出を止めれないだろうか。そうしたら、これらのヨーロッパ市場に我が国のガスを輸出できるんだがな。

そんなことを思っていた矢先、まったく「タイミングのいいことに」、2022年2月ロシアがウクライナに対して戦争を始めました。すると西側諸国は一斉にロシアに対する金融、そして経済制裁を始めました。これによってアメリカと同盟を結ぶヨーロッパの国々は公式にはロシアからガスを輸入できなくなりました。

ヨーロッパ諸国は急いでガスの供給代替先を見つけなくてはいけなくなりました。

するとフランス、オランダ、スペイン、ポーランドなどへのアメリカのガスの輸出量が一気に増え始めました。

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なかなかアメリカから輸入しないドイツ

ところが、まだ1つ問題があります。

というのも、ロシアのガスを最も多く輸入しているはずの経済大国ドイツはまだほとんどアメリカのガスを輸入していないのです。ドイツはロシアからノードストリームというガスのパイプラインを建設し、これによりガスを液化することなしにそのまま安価に輸入する手段を持っていたのです。

そのためドイツはアメリカの天然ガスの輸入へ舵を切りません。さらにこれが問題なのはドイツは近隣諸国にこのガスを「輸出」していもいたのです。

アメリカのガスを売りたい人達にとってこれは由々しき問題です。

もちろんアメリカの政治家もしっかりこの状況を理解し、このノードストリームを停止(または破壊)するべきだとウクライナ戦争よりもっと以前から主張していました。

ノードストリーム爆破

そして2022年9月26日、その運命の日はやってきました。

こうしたアメリカの政治家の主張を叶えるかのごとき、ノードストリームは爆破され、破壊されてしまったのです。

誰が爆破したのか。これは世界の外交、インテリジェンス、ジャーナリストの世界ではアメリカがその背後にいることは公然の秘密となっています。

この爆破がどのように行われたかは、アメリカの著名ジャーナリストであるシーモア・ハーシュのよって詳細に描かれています。

  • How America Took Out The Nord Stream Pipeline - Link

ここでは誰が正しいのか、何が真実なのかという話は置いておきます。

事実としてわかっていることだけにフォーカスしましょう。

それはこの爆破後、ドイツを始め、フィンランド、イタリア、オランダなどへのアメリカ産ガスの輸入は急激に増え始めたということです。

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液化ガス輸出世界一となったアメリカ

ガスの輸出は大きく分けて2つの形で行われます。1つはパイプライン、もう1つは液化したガス(LNG)をタンカーで運ぶものです。

アメリカの場合陸続きのカナダ、メキシコにはパイプラインでガスを輸出します。しかしそれ以外の、例えば日本を含めたアジア、そしてヨーロッパの国々には液化ガス(LNG)をタンカーで輸出します。

そしてこの7,8年の間に液化ガス(LNG)の輸出は他の液化ガス輸出国に比べ圧倒的に伸びました。

ヨーロッパのエネルギー支配を固めたアメリカ

これでヨーロッパはしっかりと北米(カナダ、メキシコ)に肩を並べるアメリカ産ガスの市場となりました。

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もちろん、他にも色々と理由はあるでしょう。 しかし、シェール革命で膨大なガスを手に入れた、しかしロシアのせいでヨーロッパの市場に入れなかったアメリカ。 この問題がうまく解決されたのは、偶然でしょうか、それとも必然でしょうか。

エネルギー(石油、ガス)を握るものは、その国、または地域を支配します。 ウクライナ戦争によってアメリカのヨーロッパに対する支配はさらに強化されました。

戦争に負け苦しむ当事国の人達を横目で見ながら、遠い場所で乾杯を上げる人達がいる、なんだか狂気の沙汰としか思えませんが、そういう世界に私達は生きているということです。

ビデオ解説

今回のアメリカの天然ガス輸出戦略についての解説、また元データの取り方、チャートの作り方について こちらのビデオで詳しく解説していますのでぜひご覧ください!

データ

今回使ったデータはこちらに公開しております。 ご自由にお使い下さい!

  • US Natural Gas Export By Country - Link

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