アメリカではこの数年、特にコロナパンデミックの後ホームレスの数が増え、大きな社会問題となっています。
このような映像も見たことあるのではないでしょうか。
都市によっては、まるで第三世界かのような光景が広がっています。
実際ホームレスの数もパンデミック以降一気に増えています。
それでは現在アメリカではどこにホームレスが多いのでしょうか?
以下は、最新の2023年のそれぞれの州の人口当たりのホームレス数を表したものです。
アメリカの首都であるワシントンDCが人口当たりだとダントツで多いのですが、さらにニューヨーク、カリフォルニアなども他の州に比べてかなり多いです。
ただ州によって大きな違いがあり、多い州もあれば少ない州もあります。
ただ特に海外からアメリカを訪れる人はニューヨークやカリフォルニアが多いので、そこで目にするホームレスの光景を見るとみんな驚きます。
しかし、アメリカのホームレス問題を語るとき、メディアを含め多くの人たちは「ホームレスが増えている、コントロールできなくなっている!」で終わります。そこで大抵の場合は政府が何らかの対策をすることを求め、対策予算の確保、増加を求めることになるのです。
しかし、ここ最近のアメリカのホームレスの問題は、お金の問題ではなく、それは政治の問題です。ホームレス対策に十分なお金が確保されてないからホームレス問題が悪化しているのではなく、この問題が政治化されているから余計に状況が悪化しているのです。
州知事や州議会の多数派などを元に、それぞれの州が共和党寄りか民主党寄りかを分けた「党派インデックス」によって色分けしてみました。赤が共和党寄りの州、青が民主党寄りの州です。
上位に来るほとんどの州は民主党寄りであることがわかります。
これらの民主党寄りの州での、この10年でのホームレスの数の推移を表したものが以下です。
カリフォルニア、ニューヨーク、ワシントンなどではこの10年ずっと上昇傾向であり、さらに州によってはパンデミック以降に一気に増えています。ただ、マサチューセッツのように一部では減っている州もあるようです。
この10年の間(2014年から2023年)にどれだけ増加したのか、その増加率を州ごとに表したのが以下です。
州によってはこの10年の間に60%から100%ほど伸びています。
これを同じ「党派インデックス」によって色分けしたのが以下ですが、ここでも増加率が高い州の多くが民主党寄りなのがわかります。
こうした民主党寄りの州ではホームレスが多く、さらに増加傾向であるというのは不思議だと思う人もいるかも知れません。民主党はリベラルなのでホームレスなど社会的弱者に優しく、逆に共和党は個人の自由、小さい政府を求めるので、ホームレスのような社会的弱者は放っておかれる、といったイメージを持っている人にとってはなおさらです。
それではなぜ、民主党の州にはホームレスが多く、さらにホームレスの数が増加しているのでしょうか?この疑問に答えることで、アメリカのホームレス問題の本質に迫っていくことができるようになります。
1つには、これはマネージメントの神様とも言われるピーター・ドラッカー氏が1940年代に書いた「産業人の未来」の中でも言っていたことなのですが、リベラル政治家の無能さによるものだという見方です。
理想的な話はできるのだが、実行力がないというものです。
もちろんこれにも一理あるのですが、これはホームレスの問題が政治問題化されているというのも大きいのではないかと思います。実際私は2000年にサンフランシスコに移り、それ以来20年近くこの辺りに住んでいたことがあるのですが、例えば市長選挙など地域の選挙があるたびに、ホームレス問題は争点になります。
そしてたいていの場合勝つのは、より多くのお金をホームレス問題にばらまくことを約束する政治家たちです。それはいつも民主党寄りの政治家ですが、その中でもさらに左寄りの政治家たちです。
この問題が大きくなれば、それを争点として選挙に勝つ政治家がいるのです。逆にこの問題が解決してしまうと、民衆に対して自分に投票しろと説得するために便利な争点がなくなってしまうのです。これは人種差別問題でも同じです。解決されてしまっては困る問題というのがあるのです。これは民主党の政治に特徴的です。
実際、去年11月に中国の習主席がAPEC会議に参加するためにサンフランシスコを訪れた際には、州政府はサンフランシスコ市のホームレスを当該地域から強制的に取り除きました。
そしてなんとカリフォルニア知事はそのことを両手を挙げて認めていました。
Yes, this is real.
— Nancy Pelosi Stock Tracker ♟ (@PelosiTracker_) November 13, 2023
Gavin Newsom: "I know folks say, 'Oh, they're just cleaning up this place because all these fancy leaders are coming into town.' That's true because it's true" pic.twitter.com/a0RT70k03r
つまり、少なくとも排除するという意味でになりますが、解決しようと本気で思えば解決できるが、あえてしないということです。
ここまではホームレス問題が解決されないのは政治的な問題であるからだという話をしてきました。これは以前からの話なのですが、それではなぜ最近、特にここ10年ほどの間に特にカリフォルニアなどの一部の民主党寄りの州でホームレス問題はさらに悪化しているのでしょうか。
これは最近の傾向として、ホームレス問題が経済的なインセンティブになっているという問題です。
まずホームレスの問題と言うと、ホームレスの人達のためのお金、つまり予算が足りないと思いがちなのですが、実は毎年ものすごい額のお金がホームレス対策として割り当てられています。
例えばカリフォルニアの場合、2018年から2022年の5年の間になんと24ビリオンドル、日本円にして約3.6兆円ほどの予算がついているのです。
そうした予算は州内の市(サンフランシスコ市、ロサンゼルス市など)や郡などに割り当てられます。
実際例えばサンフランシスコ市などでは年々ホームレス対策を担当する部門への予算は伸びていて、コロナパンデミックが始まる2020年には一気に伸びています。(HSH(Homelessness and Supportive Housing)- Link)
例えば最新の2024年会計期の予算は646ミリオンドル、日本円にして約1,000億円ほどです。サンフランシスコという人口80万人足らずの市のホームレス対策部門の予算が1,000億円を超えるとはとんでもない額です。もちろん、ここには民間や市民からの寄付金などは含まれていません。
ただ、ここで注目したいのはその後です。というのは市や郡に渡った予算はその後ホームレス関連のNPO(Non-Profit-Organization/非営利組織)に渡っていくのです。
これがホームレス産業コンプレックス(Homeless Industry Complex)と言われるものです。アメリカではよく軍需産業コンプレックス(Military Industry Complex)と言われたりしますが、軍需産業と政府が癒着することで、政府が戦争を起こし、長続きさせ、それによって軍需産業が儲かるというものです。そのホームレス産業版ということです。
というのも、毎年多くなるホームレス関連の州や市などの政府予算に対して、様々なNPO組織が受け皿になっているのです。
それでは先ほど言った、24ビリオンドル、日本円にして約3.6兆円ほどの予算はどの自治体やNPOに割り当てられたのでしょうか。
実は、カリフォルニア州のホームレス対策関連の予算の使い道や施策の効果を評価するために独立した監査が最近入ったらしいのですが、そのレポートによるとその莫大な予算の使い道は不明とのことでした。さらに、今後も予算の使い道やそれぞれのホームレス対策の効果に対する評価を調べることもないとのことです。
そもそもカリフォルニアでは2017年に、州内の様々な組織間でのホームレス問題対策の調整と予算管理をするために作られた事務局がCal ICH(California Interagency Council on Homelessness)です。
その組織が州内の予算の使い道を追跡することも、公表することも、さらにホームレス向けの住宅開発などの対策の効果の評価をすることもないということです。
さてこのCal ICH(California Interagency Council on Homelessness)が2017年に作られ、さらにその後24ビリオンドル、日本円にして約3.6兆円ほどの予算が注ぎ込まれたわけですが、その間にカリフォルニアのホームレスの数はどうなったのでしょうか?
数にして75,000ほど、割合にして50%近く増えています。
これが、特に民主党寄りの州でホームレスが増加する大きな理由だと言われる所以です。
つまりこういうことです。
-> ホームレスの数が増える。
-> 住民のホームレス問題を解決してほしいという超えが高まる。
-> 今度こそはホームレス問題を解決する、だからもっと多くの予算を!という政治家が選挙で選ばれる。
-> 政府はより多くの予算をつける。
-> より多くのお金がNPOや、ホームレス用住宅などを建設する業者に流れる。
-> お金は動くが、本当に必要な対策(ドラッグのリハビリ、精神科医によるセラピー、自立啓蒙教育、職業訓練、など)が行われることはないので、問題はいつまでたっても解決されない。
-> むしろ現金がホームレスに支給されるので、まわりの州からもお金を求めてホームレスになる人達(若者が多い)がやってくる。
People say lack of housing forces local residents into the streets, but James says he came from Texas to San Francisco for the drugs, the non-enforcement of anti-camping laws, and the $820/month in welfare & food stamps. James says he sold fentanyl, 2 weeks ago, to a 15-year-old. pic.twitter.com/5qMr6tmlWs
— Michael Shellenberger (@shellenberger) February 9, 2022
そして一番目にまた戻るのですが、この潤ったホームレス産業コンプレックスは特定の政治家を支持します。もちろん、もっと予算を増やし、抜本的な解決をしない政治家です。
そして、予算を増やす、つまり大きな政府にしたいのが民主党の政治家で、抜本的な、ときには痛みを伴う解決をする気がないのが民主党の政治家なのです。
これがホームレスの数が増えているのは民主党寄りでリベラルな州でが多い理由です。
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