データの自由な行き来のための「大阪トラック」がなぜ今、世界にとって重要なのか

もう数週間前になりますが、日本でのG20の大阪サミットの際に、データに関連するおもしろい発表がありました。

“Data Free Flow with Trust” という日本が数年前から提唱しているビジョンのもとに、それを実現するための「大阪トラック」というイニシアチブの発表でした。

これには、インド、インドネシア、南アフリカを除く、24カ国がこのイニシアチブを認める覚書にサインしたとのことです。

現在のようなデータの扱いに関して様々な思惑がうごめく中でよく24カ国からのサインをまとめたなと思います。

なぜ今データの自由なフローが求められるのか?

このインターネットの時代に、データの自由なフローとはどういうことなのかと思うかもしれませんが、現在国境を超えたデータの自由な行き来に関しては実は危機的な状況です。

というのも、現在、例えば中国やインド、ロシアといった国、またEUといった地域連合は、自分たちの国、国民のデータの管理を強めています。これによって、外国の企業はそれらの国でデータを集めるのが難しいにもかかわらず、それらの国の企業はアメリカや日本などといった、データに関する規制がゆるやかな国からはデータを取り放題ということになっています。もちろんこれでは、不公平です。

もちろん、データに関してはプライバシーや所有権といった難しい問題がありますが、現在のような、Data is eating the worldといったデータを集め、それを使いこなすことがビジネスの競争優位になる時代に、一部の国がこうしたデータに関する規制を勝手に自分たちに都合のいいようにつくるというのは自国の企業を守るための保護主義的な規制だと捉えられかねません。

そして、このことが、そっちがやるなら、こっちもということになり始めると、せっかくのインターネットが提供する便利さと機会というものを失われてしまうことにもなりかねません。

例えば、私達Exploratoryのようなスタートアップが、それぞれの国の独自のデータに関する規制を守るために、仕様を変えたり、ドキュメントを変えたり、サーバーをそれぞれの国に用意したり、それぞれの国に法律家を雇ったりとしていたのでは、現在のように世界中の様々な国からのユーザーを受け付けるという、インターネットの世界では当たり前のことができなくなってしまいます。

インドではインドの国民に関するデータを集めることになる企業はインドにあるサーバーを使ってそのデータを処理しなくてはいけません。

中国も同じようなもので、政府に指定されたデータは中国の国内のサーバーに保存されなければいけません。そしてこの国の政府はどの企業にでも、いつでもデータをよこせと要求することができるのです。

これは、何も欧米とそれ以外ということでもありません。例えばインドと中国の間でも、データの収集、その扱いに関して合意ができていないために、インドの軍関係者はFacebookの傘下にあるWhatsAppというメッセージングのアップはインストールして使うことができても、中国のWeChatをインストールすることができません。

データの規制は既存のメガ企業を有利にするだけ

これは、自分たちの国のビジネスを守るという一面もあるかもしれませんが、EUのオウンゴールであるGDPRの大惨劇で見たように、結局は、自分たちの国の中小規模のビジネスを殺すことになってしまい、逆にGoogleやFacebookのように、こういった規制による煩雑さをものにしないほどの資金を潤沢に持った巨大企業にとって有利な状況を生むだけに終わってしまうでしょう。

データの行き来に関する国際ルール

そこで、国というボーダーを超えたインターネット上でのデータの行き来を保証するために、それぞれの国が独自に自分たちの都合だけで勝手なルールを作るのを許すのではなく、国際的な枠組みのもとで、標準的なルールを作り、そのルールに則っている限りはお互いの国同士でのデータの行き来を保証する、もし守られていない国があるのなら、他の国からデータを獲得することができなくなるというものです。

歴史的にも、貿易という形で「もの」の自由な行き来によって恩恵を受けてきた日本、また、欧米でもなく、第3世界でもない日本だからこそ、まさにリーダーシップを発揮できる分野なのだと思います。

国境を気にすることなくデータが自由にインターネット上を行き来することができるというのは、我々インターネット世代には当たり前のような気がしますが、残念ながら、世界を見渡すと現実にはその逆の方向に進んでいるというのが現状です。

日本のリーダーシップに期待

これからの、データによる新しいビジネスの機会、さらにイノベーションを起こしていくには、こうしたイニシアチブは大変価値があるものだと思います。ここで日本という国がオープンな方向に世界の国々を引っ張っていこうとするリーダーシップには、久々にワクワクさせられました。

ぜひともうまくまとめてほしいものです。

参考記事:

  • Abe heralds launch of ‘Osaka Track’ framework for free cross-border data flow at G20 - [Link](Abe heralds launch of ‘Osaka Track’ framework for free cross-border data flow at G20)
  • The G20 in Osaka 安倍首相による寄稿 (Project Syndicate) - Link
  • The Global Data War Heats Up (The Atlantic) - Link

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